「すみれキッチン」とは? それは、宝塚大劇場の楽屋の奥深くにある、現役のタカラジェンヌとOGしか利用できない秘密の食堂。男子禁制の、10人も座れば満席になるカウンター席だけの食堂で、ファンにとっては伝説の聖域だ。
そしてついに、その味を再現した本『愛と青春のすみれキッチン』(祥伝社)が出版された。掲載されているレシピは、ハンバーグや豚肉生姜焼きのような“ガッツリ系”の王道から、甘カレー、ちくわのチーズフライ、野菜のごちゃ煮といった家庭的なメニューまであり、意外なほど素朴で庶民的。
「どのメニューも特別凝ったものではないですし、一般の家庭にある食材で簡単につくれるものだけど、温かみがあって、ほっとする味なんです。みんな親元を離れてきているので、家庭の味を思い出させてくれるし、安心感があるのかもしれません」(81期・瀧川末子さん)
メニューのネーミングも愛らしい乙女ぶりだ。前日の残りの味噌汁をごはんにかけた『にゃんこ』や、スクランブルエッグをごはんにのせた『ふわふわ丼』、『モーニングシー・ロール』には考案した朝(モーニング)海(シー)ひかるさんの名前がついている。スイーツにいたっては、ただのりんごを砂糖・水・氷でシェイクした『タダリン』が定番なのだとか。
「私は、朝はにゃんこ、卵かけごはん、ふわふわ丼が定番。しいたけごはんは冷めてもおいしいから、おにぎりにして持ち帰っていました。飲み物は220円くらいだったかな。甘いものが飲みたいときは『タダミル』。タダミルはエバミルクと砂糖と水と氷をミキサーでしゃりしゃりにしてあって、あれがなぜか、疲れた体にいいんですよ」(瀧川さん)
キッチンのメニューはお味噌汁・おかず・ごはん・副菜の4品が「本日の定食」のように毎日替わる。支払いはすべてツケで千秋楽前にまとめて請求されるという。キッチンを仕切るのは、タカラジェンヌたちから「ひとみちゃん」と呼ばれている女性。年齢は不詳、見た目は「ドラえもんみたいで癒される」とか。ただし、上下関係の厳しい宝塚だ。すみれキッチンで実際に食べれるのは、中堅から上級生だという。
「下級生のときは休息中や混んでいる時間帯を避けて、お芝居中の自分が出ていない時間に買いにいったりして、楽屋に持ち帰って食べていました。上級生になったら、ふだんはなかなかお話できない他の組の方ともおしゃべりしながら朝ごはんをたべたりして、コミュニケーションの場になっていましたね。公演が終わった後、楽屋の自分の席にすみれキッチンに頼んでおいた食事があると、ほっとしました。ああ、今日もがんばったなあって」(瀧川さん)
【すみれキッチンの定番スイーツ『ミルクプリン』の作り方】
1)牛乳(200CC)と砂糖(大さじ5)を鍋に入れ弱火にかける。粉ゼラチン(5g)も加え、溶かして粗熱をとる。2)ボウルに1を移し、卵を1個、バニラエッセンス(2~3滴)を加え、泡立て器でよく混ぜる。グラスに流し入れ、冷蔵庫で冷やし固める。固まったものにエバミルクをかけて食べる。