「アルツハイマー病の進行を食い止めたり、その予防に“歯周病治療と予防”が大きな役割を果たす可能性があることを、今回の研究結果は示しています」と語るのは、名古屋市立大学大学院の道川誠教授だ。この研究は5月31日から開催された日本歯周病学会で発表され、世界中から注目を集めている。

 

「今回の実験では、人工的にアルツハイマー病に罹患させたマウスを2グループ用意し、その一方だけ歯周病に感染させました」と愛知学院大学歯学部・野口俊英教授は言う。そして「そのマウスを解析した結果、明らかに歯周病を発症したマウスのほうが認知機能障害が増悪していたことがわかりました」と道川教授。

 

アルツハイマー病と歯周病の関連性が実験で証明されたのは、世界初のこと。さらに実験開始から約4ヶ月後、マウスの脳を調べると、記憶をつかさどる脳の海馬にアルツハイマー病の原因となるアミロイドベータタンパク質が沈着していた。歯周病菌に感染したマウスのほうが、その沈着面積で約3.1倍、量で約1.5倍にも増加していたという。

 

「アルツハイマー病は、いまだ根本的な治療法や有効な予防法がない病気です。今回の研究成果は、歯周病の予防や治療によって、アルツハイマー病の発症を予防できる可能性を示しているといえるかもしれないのです」(道川教授)

 

6月1日の厚生労働省研究班の発表によると、2012年時点で認知症高齢者数は推定462万人、発症の前段階とみられる軽度認知症高齢者数は推計400万人。合わせるとその数は約862万人、総人口の約7%にも及ぶ。初期症状は物忘れなど記憶障害の発症が多く、進行すると判断力の低下や性格の変化、食事や着替え、意思の疎通も困難になり、最終的には寝たきりになって死期を早めることも。

 

道川教授は、“予備軍”と呼ばれる軽度認知症者に対して、とくに歯周病ケアが大きな効果を発揮するのではないかという。

 

「“予備軍”というのは、生活も自分ででき、正常なのですが、認知機能を評価するテストでは軽い物忘れのみが見つかる状態。こんな“予備軍”の50%は5年後、アルツハイマー病に移行するとされています。そのため、こういった人たちの歯周病を治すことはとくに大事なのかもしれません」

 

一方、歯周病とは、歯茎にできる慢性炎症性の疾患。野口教授によれば「表面的には、歯茎の腫れ、出血、口臭という症状が出ます。進行すれば、最終的には骨が溶け、歯が脱落してしまいます。成人以降、とくに40歳を過ぎると非常に患者数が増えます。歯茎が赤く腫れるといった軽度の歯周病も含めると、日本国民の7割、約8千万人がかかっているといわれています」

 

いちばん簡単な予防法は歯磨きとのこと。きちんと磨けているか、定期的に歯科医に見てもらうのがいいという。まずはそこから、ということだろう。この共同研究チームの研究結果は、7月にアメリカで開催される「アルツハイマー病国際会議」でも発表される予定だ。

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