「さまざまな原因で脳細胞が壊れていく認知症は、効果的な治療法がないのが現状です。が、実のところ私は、認知症と腸内細菌には深い関わりがあるのではと見込んでいます。つまり、脳細胞が破壊される引き金に、腸内環境が大きく関与していると考えています」

 

こう語るのは、順天堂大学医学部教授の小林弘幸先生。腸内細菌が集まって分布されている様相「腸内フローラ」のバランスが、アレルギーや肥満、糖尿病などに関係していることは知られている。また、うつ病や自閉症など精神の病気についても、腸内フローラが影響しているのではと、さかんに研究が進められているそうだ。

 

「腸と脳が、非常に密接な関係であることは、19世紀ごろから考えられていました。100年以上前には、うつ病や神経症などの精神疾患は、腸に老廃物がたまることで発症すると。そのため、下剤がうつ病の治療薬として用いられていたのです。腸内細菌についての正確な知識がない時代の先人たちは、現代医学が最先端の研究によってたどりついた考え方に気づいていたのですね」

 

このような腸と脳のつながりは「腸脳循環」や「腸脳相関」と呼ばれている。これまでに「脳→自律神経→腸」という一方通行ではなく、「腸→自律神経→脳」という方向でも情報が伝わることがわかっている。最近では、腸内細菌が脳の機能に影響を及ぼすという研究も熱心に行われ、そう遠くないうちに、認知症を予防したり治療したりするような腸内細菌が見つかると期待されているという。

 

「脳を元気にさせる腸内フローラを整えるためには、やはり乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌がたっぷりの発酵食品を多く取り入れることが最善です。最新の研究では、1種類よりも数種類の善玉菌を同時に取ったほうが効果的、という報告があります」

 

同時に摂取することで、それぞれの善玉菌が競い合うようにして勢力を広げていく、とイメージするといいようだ。

 

「大腸がんの死亡率が全国でもっとも少ない滋賀県では、食卓に特産のフナずしだけではなく漬け物、納豆など、いくつもの発酵食品が並んでいます。実は、私は、これも認知症に効果的だと考えています」

 

いつまでも脳も腸も元気でいるために、たくさんの発酵食品を取りたい。

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