「80〜84歳の認知症有病率は、4人に1人というデータがあります。今後、ますます高齢化が予想されるため、ほとんどの人が身近な問題として受け止め、今から介護費用の準備をする必要があるのです」
こう警鐘を鳴らすのは『介護施設&老人ホームのさがし方・選び方』著者で、介護経営コンサルタントの齋藤直路さん。今回、齋藤さんに一般的な「関東在住の80歳夫婦のケース」を想定して、その費用の一例を計算してもらった。
■80〜81歳
例:近年、夫の物忘れが激しくなり、日々のコミュニケーションや日常生活にも支障を来すようになってきた。かかりつけ医の紹介で認知症の専門医を受診したところ、アルツハイマー型認知症と診断された。これまで全くリハビリなどしたこともなく、状態はあまりよくないようだ。要介護1と判定され、2年目には要介護2に。できるだけ自宅でと、在宅介護を選んだ。
「一般的な家庭では、実際の介護にかかる費用の1割を自己負担します。また地域により単位(単価)、事業者により加算が違います。要介護1の介護保険自己負担の上限額は約1万6,000円です」(齋藤さん・以下同)
認知症患者で大切なのは、リハビリだ。
「要介護1の介護保険自己負担額だと、だいたいデイサービスに週に3回ほど通うことができます。デイサービスは車での送迎もありますし、自費となりますが800円くらいの昼食も出て、いろんな人とふれあいながら一日を過ごせます」
当ケースのように、要介護1で月々1万6,000円の介護費用を支払い、週3回のデイサービスの昼食代(800円×週3回×4週)を合わせると、1カ月あたり合計約2万5,600円かかる。要介護2で同様の計算をすると、1カ月あたり合計約2万9,600円だ。
「つまり、要介護1で1年、要介護2で1年の在宅介護をすると、約66万2,400円もかかることがわかります」
■82〜86歳
例:夫の認知症が進行し、徘徊や暴言が深刻化。要介護2のままだが、妻は在宅での限界を感じた。本人と相談のうえ、ケアマネージャーに認知症の対応可能な施設を探してもらい、入居金700万円の介護付き有料老人ホームに入居した。
「要介護2の自己負担は、月約2万円になります。そのほか、施設の場合は家賃や食費などに約20万円かかります。つまり、月に約22万円の費用が想定されます」
入居金は無料の施設から、1,000万円を超えるような高額施設までさまざまだ。
■87〜92歳
例:要介護2のまま5年間、安定した老人ホームの生活をしていたが、入居6年目、夫がベッドから転倒して骨折。これを境に寝たきりになり、著しく身体機能が低下。87歳で要介護4にひきあげられ、1年後の88歳からは要介護5に。92歳の誕生日までを施設で過ごし、みとられた。
「要介護4の介護保険自己負担額(1割の場合)は月々約2万5,000円、同条件で要介護5の介護保険自己負担額は約2万7,000円。それぞれ月に20万円の施設利用料がプラスされます」
それでは当ケースの認知症の人の場合、総額いくらかかったのだろうか。まず、80〜81歳までの2年間の在宅介護費用は、前述のように約66万2,400円。さらに施設での介護費用は、入居金700万円+22万円×60カ月(要介護2で5年間)+22万5,000円×12カ月(要介護4で1年)+22万7,000円×48カ月(要介護5で4年)=3,379万6,000円。
「生涯の認知症介護費用総額として約3445万8,400円と概算することができました。これに、老後のさまざまな病気の医療費が加わります」
これらを貯金や年金によって捻出するのだ。
「もちろん、認知症と一言でいっても、ケースは多岐にわたります。たとえ要介護1になっても、適切なリハビリで亡くなるまで在宅介護できれば、年金で賄うことも可能です。また、所得などの諸条件によりますが、超えた分のお金が戻る介護高額サービス制度もあります」
まずは、概算と行政サービスを知り、来るべき介護生活の資金計画を立てることが必要だ。