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「ただの便秘と思って放っておくのは危険です。大腸がんなどの病気や薬の副作用を見逃してしまうこともあるので、苦しいときには我慢しないで医療機関を受診することをお勧めします」

 

こうアドバイスするのは、横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室の中島淳主任教授。ただでさえ病院で自分の便通のつらさを話すことに抵抗のある人は多い。しかも便秘についての“正しい知識”を持たない内科医がいて、門前払いになることもある。

 

そんな現状を変えようと、消化器内科・外科医らで組織する「慢性便秘の診断・治療研究会」が、昨年10月に日本初の『慢性便秘症診療ガイドライン』(南江堂)を作成した。

 

これまで「病気ではない」と軽視されがちだった便秘。しかし、国内初の診療ガイドラインができたことで、状況は劇的に変わりつつある。

 

新しいガイドラインを把握したうえで、便秘に悩む人々にしっかりと向き合ってくれるという医師は、いま全国で着実に増えている。さっそく本誌記者も、その治療を体験してみることにした。訪れたのは、今回のガイドラインの作成メンバーでもある、鳥居明先生の診療室(東京都世田谷区・鳥居内科クリニック)。

 

患者は成人女性だけではない。ストレス社会を象徴するように、最近は中学生や高校生、若い男性のサラリーマンまで、老若男女問わず来院するようになってきたという。

 

クリニックでは、問診票の「便秘症状チェックシート」を利用しながら、カウンセリングを中心に診療を行う。診断から治療法が決まるまでの流れは次のとおりだ。

 

【ステップ1】じっくりカウンセリング

 

「いつ頃から便秘の症状がではじめたんですか?」と質問がスタート。だいたい3カ月以上前から続いていれば「慢性便秘」と診断される。

 

「ほかにもお腹の痛みはあるのか、どのあたりが痛むのか、お腹に不快感はあるかどうか、お腹の状態を聞きます。次に『ガスでお腹がパンパンに張ってお腹が苦しい』といった自覚症状から、『排便してもスッキリしない』『いつもいきまないと便が出ない』『便意があってトイレに行っても何も出ない』などの排便の状態。さらに排便時に肛門周辺に不快感があるかどうかも聞きます」(鳥居先生・以下同)

 

便秘の原因となる病気を持っているかどうかも確認。家族に大腸の病気にかかった人がいるかどうかも尋ねている。大腸がんなどの疾患の可能性も含め、50歳を過ぎていれば要注意だ。

 

また、薬による副作用で便秘を起こしているケースも多いので、すべてチェックする。

 

たとえば、うつ病のときに精神科で処方される抗うつ薬。この向精神薬は腸の動きを抑制する。そして、パーキンソン病の患者に処方される抗パーキンソン病薬。鎮痛薬として使われるオピオイドも消化管の動きを抑制する。

 

心臓病の処方薬のカルシウム拮抗薬、抗不整脈薬、血管拡張薬といった循環器作用薬も、腸管の運動を抑制する。

 

【ステップ2】便の状態をチェック

 

治療に不可欠なのが、自分の便の状態を記録すること。

 

「水分が失われれば失われるほど硬くコロコロした状態になり、排便するのが困難になります。『表面がなめらかで軟らかいソーセージ、あるいはバナナ状』の便が、理想的な便です。便秘の症状を訴える人は木の実やウサギの糞のような便が多いですね」

 

逆に水分量が多い、下痢タイプの人もいる。このタイプの人は、便に血が混じっていないか、そして便の色も確認すること。茶褐色であれば問題ない。

 

【ステップ3】聴診器をあてる

 

問診が終わったら、ベッドにあお向けになり、膝を立てた状態でお腹に水がたまっていないか、かたまりはないかと触診。聴診器もあてる。

 

「ブクブクと音がするのは、腸の中で液体が動いていてガスがたまっている証拠です」

 

腹部のレントゲンで病気が潜んでいないか最終チェック。ここで病気の疑いがあれば、専門医と連携。薬の副作用の場合も、処方した医師に調整を依頼する。

 

病気でも薬の副作用でもない慢性便秘は「機能性便秘」と診断され、投薬治療を中心に、原因を探りながら生活環境の改善を促す。

 

「健康であればトイレに入り20〜30秒、長くて1分ほどで排便します。これがある意味、治療のゴールとも言えます」

 

便秘で残便感や腹痛、腹部膨満感が強ければ「便秘型過敏性腸症候群」と診断される。

 

【ステップ4】薬を処方する

 

最初は1〜2週間分の薬を処方。1〜2週間後に再度状態を確認して、量を調整する。

 

「個人差もありますが、だいたい早い人で2週間、平均1〜2カ月も薬を飲み続ければ毎日スッキリ出るようになります」

 

慢性便秘症を改善する新薬も、相次いで保険適用になったので知っておいてほしい。

 

■アミティーザ(発売は’12年、適用は慢性便秘症)

 

これまでの便秘薬は大腸に水分を集めて軟らかくするもので、効きすぎて下痢になることがあったが、アミティーザは小腸に働きかけるので、自然なお通じを促せる。

 

■リンゼス(発売は’17年、適用は便秘型過敏性腸症候群)

 

便が軟らかくなるだけでなく腹痛や腹部膨満感にも効く。

 

「薬に頼るだけでなく、便秘の原因が何なのかを日々探りながら、食生活や生活環境を改善することが大切です」

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