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「医療先進国・アメリカでは、まだ日本では知られていない“未来のがん治療”が日々研究されています」

 

そう語るのは、ハーバード大学元研究員で、ボストン在住の内科医・大西睦子さん。アメリカにおける、今注目すべき最先端のがん治療法を解説してもらった。

 

【1】免疫細胞を遺伝子操作

 

「これまでも、患者さんの血液から、がん細胞を攻撃するT細胞と呼ばれるリンパ球を体外に取り出し、培養後に体内に戻す免疫療法は行われていました。しかし、T細胞を大量に増やすことは困難なうえ、がん細胞は免疫から逃げる機能を持ち合わせているため、十分な効果が得られないケースも少なくありません」(大西さん・以下同)

 

そこで注目されているのが、がんに対する初の遺伝子治療ともいわれる「カーティ療法」。

 

「患者さんのT細胞に遺伝子操作して、キメラ抗原受容体を加えます。さらにT細胞の増殖を促し、なおかつ、免疫から逃げるがん細胞に結合しやすくして、次々と攻撃して死滅させています」

 

再発・難治性の白血病の一種を対象に、薬剤は’17年8月、米食品医薬品局(FDA)で承認されている。

 

「薬剤は注入後20カ月たっても、患者の体内で検出可能です。つまり、たった1回の治療で、長時間持続することが示唆されています」

 

血液がんばかりでなく、固形がんも対象に研究が進められている。

 

【2】尿検査でがん判定

 

「これまでがんの診断には、患者さんは体の負担が大きい内視鏡、体に針を刺す生検などをしていました。しかしリキッドバイオプシーという技術は、唾液や尿などの体液や、一滴の血液などに含まれる、わずかながん細胞を検出することが可能となります」

 

’16年、FDAは肺がん患者を対象に、この医療技術を承認した。

 

「これにより、がんの種類をDNAレベルで判定できるので、的確な抗がん剤治療も可能となります。しかし、さまざまながんを超早期に発見できる一方で、その段階で抗がん剤など体に負担のある治療を始めるのか、というリスクの問題もあります」

 

【3】AIが最適な治療法を決定

 

「IBMが’11年に開発発表した学習システム『ワトソン』を、’12年から医療分野に応用する研究が進められています」

 

論文に関して、一人の研究者が年間に読む数は200〜300本というところ……。

 

「ワトソンの技術は、すでに2,500万の医学研究の抄録、100万件以上の医学雑誌の報告、400万件の特許情報が読み込まれています。さらに毎月100件の臨床試験、1万件の科学論文とデータが、更新されているんです」

 

患者の遺伝子や画像を入力すれば、世界中で蓄積された医療ビッグデータを基に、最適の治療法が導きだされる仕組みだ。

 

「テスト段階ではありますが、『メモリアル・スローン・ケイタリングがんセンター』の研究では、ステージI〜IIIの乳がん患者の診断において、同センターが推奨する治療と90%以上の一致率という結果が出ました。すでに人間と同等レベルの診断ができ、さらに精度が増せば、医師の見逃し、知識不足を補い、瞬時に最適な治療方針を検索できるでしょう」

 

がんの外科的手術の場合、切除した患部をその場で病理医が調べて、「がんの取り残しがないか」などの判定をしていた。

 

「しかし組織を調べるには10分くらいの時間を要します。時間に比例して患者さんへの麻酔量が増え、さらに感染症リスクが高まります」

 

そこで、米国内で今年中にもテストが開始されるというのが、テキサス大学の研究者が開発した「マススペックペン」だ。

 

「手術中に、患者にペンを当てるだけで、腫瘍と健康な組織が96%の高確率で区別できます。所要時間も、わずか10秒。患者さんの負担を軽減でき、がんの取り残しをなくすことが期待されています」

 

まるでSF映画に登場しそうな夢の治療法の数々。その実用化がもう目の前に迫っている。

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