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「胃カメラを飲んだり、マンモグラフィーとか面倒くさい」と思われがちながん検診だが、今回本誌では、唾液や血液、尿といった手軽に採取できるもので、かなりの確度でリスクの判断が可能になる「お手軽がん検診」を取材した。

 

わずか0.2~0.4ミリリットルの唾液でがんのリスクを判定するという「サリバチャッカー」。体への負担もゼロというこの検査は、慶應義塾大学先端生命科学研究所と東京医科大学発の医療ベンチャー「サリバテック社」が開発。

 

同社のCEOであり、東北大学で長く消化器外科手術に従事した、大泉中央クリニック院長の砂村眞琴氏が、’10年から「体に負担の少ない検査法を開発したい」と、ヒトの体から出る「代謝物質」である唾液に着目。治験を経て、’17年に実用化となった。

 

検査の鍵となるのは、がん患者から出る、「ポリアミン類」という特異的な物質でスペルミン、スペルミジンなどだ。それら8種類の物質の濃度から最新AI(人工知能)がリスク解説するのがこの検査の特徴である。

 

「自覚症状の出にくい膵がんも、早期の段階で発見できる可能性があります」(砂村氏)

 

結果は、膵臓・大腸・乳腺・肺・口腔の5つのがんそれぞれについて、0~1までのリスク値を算出。ABCDでリスクを示し、CDと判定されれば専門科で精密検査を受けるよう勧められる。

 

現在全国20カ所の医療機関で検査でき、費用は2万~4万円(税抜き)程度であるが、今後、検査を受けられる医療機関が広がり、多くの人に利用してもらうことで、1万円以下に価格を下げていきたいという。

 

全国1,300カ所で実施されている「AICS(アミノインデックスがんリスクスクリーニング)」は味の素社が開発した、血液によるがん検査。アミノ酸研究で世界をリードする同社ならではの、アミノ酸による解析に基づく。

 

「血液中にある約20種類のアミノ酸バランスにより、各部位別のがんに罹患したときのパターンをそれにどれだけ近いかによってリスクを評価します」(同社・森妹子氏)

 

わずか5ミリリットル(小さじ1杯)の血液で、胃、大腸、肺、膵臓に加え、女性の場合は、乳がんおよび、卵巣・子宮体がんの7つのがんのリスクがA~Cの3段階のランクで示される。従来からあった、がんの生産するタンパク質で発見する「腫瘍マーカー」検査と比較しても、感度が高いというデータもある。

 

「放っておくとがん化する前がん病変を検知する可能性も高いので、医師は、気になる方には、年1度くらいの受診をお勧めしています」

 

費用は2万3,000~2万5,000円程度。ただし、こちらもあくまでリスク検査。森さんはこう話す。

 

「従来の検診も大事にしながら、併用して受けていただくとより安心だと思います。検査とはあくまで『網でふるいにかける』作業。AICSは早期発見に不得手な部位もあり、必ず漏れは生じます。何重にも網をかけると、早期発見の可能性はより高まります」

 

確定診断に限りなく近いという「マイクロアレイ血液検査」は、金沢大学発のベンチャー企業キュービクスが、世界で初めて開発した、血液で消化器がんの有無を判定できる検査法だ。がんに関する遺伝子を載せた「DNAチップ」を使い、4万4,000もの遺伝物質を解析し、「がんに特有の核酸」の有無や構成パターンを解析するというもの。

 

同大の金子周一教授の事業化の要請に、’04年に同社社長に就任したのは丹野博氏。

 

「体の中を巡っている血液ががん細胞を感知し、発見していくので、がんの大小にかかわらず感知率も非常に高い。従来のCTやMRIと異なり、体への負担がないところも、これを広めたいと思った理由です」(丹野氏)

 

受けられる医療機関などは現在1,000カ所。普及へのハードルがあるとすれば、医療機関により異なるものの、7万~10万円程度とやや高価なことか。

 

「各部位2万円程度で受けられる検査キットの開発・商品化を進めています」(丹野氏)

 

今後はインド、ドイツの企業とも契約し、世界進出も視野に入れていくという。

 

「早く検査を受けたいのですが」と、いまからそんな問い合わせが多数寄せられているというのが、HIROTSUバイオサイエンス社の「N-NOSE」。東大大学院在学中より「線虫」(体長は約1ミリの生物)を研究してきた生物学者・廣津崇亮氏が、「がん探知犬」から着想を得、がんが発する匂いをとらえて、がんの有無を判定できないかと考えたという。

 

’20年1月に実用化(予定)のこの検査は犬より多い嗅覚受容体を持つ線虫の特性を利用する。

 

「検査法はいたってシンプル。シャーレの上に尿を1滴垂らし、線虫が寄っていくかどうかで、がんの有無を9割という高い精度で判別します。1次スクリーニング検査なので、ここで陽性反応が出た方は、精密検査に進むことになります」(同社広報)

 

この検査の特徴は、5大がんをはじめとする18種類を感知できること(’18年10月現在)。1回8,000円程度(予定)という安価な設定であることも期待が高まっている。

 

「結果が陰性でも、半年とか1年ごとに受けておけば、陽性に転じたときに早期で見つかる可能性が高い。諸外国に比べると、日本の検診率はまだまだ低いので、この傾向に歯止めをかけたいのです」(同社広報)

 

がんには早期発見がいちばん大切だ。気になる人は、これら「お手軽がん検診」を試してみては--。

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