世の女性を悩ませている腰痛。いっこうに改善されないのは、その知識が古いからかも--。
「全国で約3,000万人の腰痛持ちがいるとされ、国民病ともいわれる腰痛。その解消には正しい知識を持つことが重要です」
そう語るのは、東京大学医学部附属病院特任教授の松平浩先生。多くの人を悩ませる腰痛。だが、誤った知識を持っている人がまだ多いという。そこで、松平先生に腰痛の最新常識について聞いた。
腰痛は重労働が多い男性のイメージがあるが……。
「世界54カ国の調査では腰痛持ちの男性が29.4%に対して、女性は35.3%。じつは女性のほうが多いことが報告されています。とくに女性の骨盤は妊娠・出産のために幅広い形になっていて、男性より腰の周りの筋肉やじん帯への負荷がかかりやすい。さらに、女性ホルモンの影響に加え、家事や育児、ハイヒールの着用など、女性のライフスタイルは、腰に負担をかけやすい状況にあるのです」(松平先生・以下同)
別の統計によると、40歳以上の約4割が腰痛を抱えているというが、じつははっきりした病気が原因でないものが多い。
「画像検査で原因が特定できるものは、椎間板ヘルニアや骨折、がんによるものなど、15%にすぎません。あとの85%は、画像上では痛みの原因の特定が難しい『非特異的腰痛』といわれています。原因がはっきりとした腰痛は治療方針を定めやすいのですが、『非特異的腰痛』は、対処法が人によって違うので治療が難しいのです」
腰の痛みを和らげようとマッサージや鍼灸などに通っている人も少なくないだろう。ところが、3カ月以上痛みが続くような長引く腰痛では、脳機能の不具合で起こっていることも少なくないという。
「“骨がズレている”“椎間板がすり減っている”などと病院で指摘されて、腰をかばいすぎると、『痛覚過敏』を引き起こすことがあります。痛みを恐れるあまり、腰痛が多少あっても問題なくできるはずの動作や運動を避けるようになり、それが心理的なストレスを生じさせます。このストレスが自律神経のバランスを乱し、血流を悪化させ、筋肉をこわばらせてしまう。結果的に、腰痛の慢性化につながるのです。またネガティブな思考は、痛みを抑える脳内物質『ドーパミン』などの分泌を妨げるので、さらなる腰痛の長期化を招きます」