「日本人は、安易に薬に頼りすぎです。それが自分の体にどういう影響を与えるのか、もっときちんと考える必要があると思います」
薬剤師の宇多川久美子さんはそう話す。厚生労働省の統計によると、40~64歳の病院にかかっている患者のじつに過半数が3種類以上の薬を処方されている。宇多川さん自身、かつては頭痛に悩まされて薬に頼る生活をしていたが、30代では17錠も常用していた薬を40代でいっさいやめてみたところ体調が改善したという。以来、薬についてより本格的に考えるようになったそうだ。
「そもそも薬は合成化合物で、私たちの体にとって“異物”です。それを無毒化し、ろ過してくれる内臓の機能も、20代のころのようには働きません。そして、ろ過しきれていない異物は体内に蓄積されていきます。その1錠が健康寿命を縮めることになりかねないのです」(宇多川さん・以下同)
そのうえ、薬を長期服用すれば耐性ができて薬が効きにくくなることも。複数の薬の服用となれば、薬同士の相互作用にも注意が必要だ。こうして、体にかかる負荷は何十倍、何百倍にもなってしまう。
「もちろん、薬には痛みやつらさなど生活に支障が出る急性の症状を短時間で抑えてくれる有効なものもありますし、症状によっては日常的な服用が欠かせない場合も当然あります。大切なのは、自分が薬を飲むのは何のためなのか、そしてそこにどれだけのリスクがあるのかをきちんと納得したうえで服用することなのです」
40~50代から薬の服用が増える症状には、高血圧、高コレステロール血症、骨粗しょう症、うつなどがある。安易に飲んではいけない薬と副作用。特に気をつけたいのが飲み合わせだ。65歳以上は特に気をつける必要があるという。
■NGな飲み合わせ
【1】スタチン×免疫抑制薬(シクロスポリン)=血中濃度が急激に増加するため、併用は禁忌
【2】インスリン製剤、SU薬×利尿剤=インスリン分泌抑制、口渇、脱水など
【3】メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)×SSRI=SSRIがラメルテオンの代謝を阻害し、血中濃度を上昇させるため、併用は禁忌
【4】オレキシン受容体拮抗薬(スポレキサント)×抗菌剤(クロリスロマイシン)=抗菌薬が抗不安薬の代謝を阻害し、作用を著しく増強させる
【5】SSRI×非ステロイド抗炎症薬=血小板凝集が阻害され、異常出血、胃腸などの出血リスクを高める
「骨粗しょう症や高血圧なら日常の運動量を増やすことで、薬を減らす、またやめるという選択肢が広がることは十分考えられます。うつ症状では依存性の高い薬が多く、医師から症状が進行したので『もっと強い薬を出しましょう』と言われることも。この連鎖を断ち切ったほうが症状が改善するケースもあるのです。ただし、主治医に相談することもせず、突然処方薬の服用をやめてしまうのはとても危険。くれぐれも自己判断は避け、医師や薬剤師の相談のもとに行ってください。信頼できる“かかりつけ薬剤師”を見つけることも大切です」
主治医に症状が安定していることを確認してもらいながら、少しずつ段階的に減薬をすることがトラブルを防ぐことにつながる。
「自分の体が出しているサインと真摯に向き合う姿勢を大切にするよう心掛けてほしいです」
“薬は異物”。このことを頭に入れ、本当に必要な薬を服用するようにしたい。