「今日もまた、気づいたらイラついて家族に当たり散らしてしまいました。家の中が殺伐とした雰囲気になって……あとから自己嫌悪に陥り、涙が止まらないこともよくあります」
そう切実に語るのは主婦のY子さん(48歳)。彼女と同じく、自分の意思とは裏腹に起こる“イライラ”症状に人知れず悩んでいる女性は多い。気分が高ぶり冷静な行動がとれない、攻撃的になり周囲の人にきつく当たってしまうなど、日常生活に支障をきたすケースも珍しくはないのだ。
“そんなつもり”は毛頭なく、心穏やかに過ごしたいのに、なぜ私たちはイライラしやすく、なぜイライラを抑えられないのだろうか。女性の心と体の悩みに詳しい、産婦人科医の池下育子先生に話をうかがった。
「イライラの原因は、もちろん人それぞれです。そのときの精神状態によっても異なりますから。ただ、本人の意思ではどうにもならないタイプのものであれば、女性の場合はやはり、ホルモンバランスの影響が大きいといえるでしょう。女性ホルモンのひとつであるエストロゲンは、心身を落ち着かせる作用がありますが、生理前から生理中にはその分泌量が減少します。そのため、ささいなことを敏感に感じ取ってしまったり、精神的に不安になってしまうなどの症状が表れやすくなるのです」
さらに女性は「更年期」という新たな要因が加わりイライラが発生しやすくなる、と池下先生は続ける。
「更年期は閉経前後の約10年間、個人差はありますが、一般的には45〜55歳を指します。まだまだ若くはありますが、加齢によって体内の老化が進むのは確か。女性ホルモンの分泌や排卵を行う卵巣の機能も、当然ながら低下してきます。しかし、ホルモンの司令塔である脳は“サボるな!”と、以前にも増して強い指令を送ろうとするため、オーバーワークしてしまうのです。特に脳の視床下部は、ほかのホルモン分泌のコントロールや体温調節、呼吸、精神活動などをつかさどる、いわば自律神経と免疫系の中枢です。ここがオーバーワークすると、体のさまざまなところに影響が出てきます。たとえば、感情のコントロールができず気分が上下する、風邪をひきやすくなる、じんましんが出るなど……」
これら“自分が自分でなくなる感覚”がいわゆる更年期障害と呼ばれる症状の一例だ。
「なお、欧米に比べ、日本では体調面での不具合は現れにくいといわれています。これは、みそや納豆などの大豆食品、発酵食品を多く摂取しているからとも考えられています。一方でこの年代の日本女性は、配偶者、親、子どもにはさまれ悩みやすい環境にいるため、そのぶんイライラや情緒不安定など、メンタル面での症状が強く現れる傾向にあるようです」