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「医療技術の完成を山登りにたとえると、いますでに9合目まできています。残り1合もこれから5〜10年で一気に進展していくといえるでしょう。間もなく医療の完成期、つまり“病気で死なない時代”がやってくるのです」

 

こう話すのは著書に『Die革命』(大和書房)がある、医師の奥真也さんだ。放射線科医として臨床現場で経験を積み、MBA(経営学修士)も取得。現在では創薬、医療機器、新規医療ビジネスに精通している。

 

つねに医療の現場の“最前線”を目の当たりにしているからこそ、奥さんが21世紀の医療について語れることも多い。

 

「脳梗塞や心筋梗塞は救急医療、画像診断の発達により、いまでは簡単に命を落とす病ではなくなりました。がんも、がん細胞を狙い撃ちする分子標的薬、チェックポイント阻害剤などの新しい治療法が確立され、様相が激変。20世紀では手に負えなかった病気が、次々に克服されています」

 

奥さんのいう“残りの1合”を登りきるためのカギになるのは、’10年以降、AIや通信機器などを爆発的に進化させた科学技術。

 

「間もなく、人間の医師では見逃してしまうような病気の兆候も、AIが見抜くようになるのです」

 

SF映画のような非現実的な話に感じるかもしれないが、これはすでに実用化されるほどに研究が進められているのだ。私たちにはどんな“医療の進化”が待っているのだろうかーー。

 

【1】病院に行かなくても治療ができる!

 

テレビ電話で、協力医療機関の医師と通話。診断をもとに、近所のドラッグストアで薬を買ったり、必要があれば通院するーー。このようなオンライン診療(遠隔診療)が進めば、仕事に追われている人が勤務先で診療を受けることも可能だ。

 

「とりあえずはわざわざ病院に行くこともないので、『病院でインフルエンザに感染した』などといった感染リスクも下げられます。診療行為の責任の所在を明確にする議論は必要ですが、人間の医師ではなく、AIの診断で完結させることも可能になるでしょう」

 

【2】スマートウオッチで糖尿病が発見できる

 

スマホの進化と同様、開発がどんどん進んでいるのが時計型の“スマートウオッチ”に代表される、身に着ける端末機器(ウエアラブル端末)。

 

アップル社が発売している「アップルウォッチ」は、現在でも睡眠時間の管理や、運動メニューの作成に活用できる。今後は病院で受けていた検査項目も、手軽に測定できるようになるという。

 

「米国FDA(アメリカ食品医薬品局)は、アップルウォッチで測定できる心電図を許可しています。さらに、同じく米国のカルディオグラム社は、アップルウォッチで測定した心拍数の変動によって、糖尿病の診断をする技術を開発したのです」

 

日常で私たちが身に着ける端末機器で、採血をせずとも、血糖値の測定が正確にできる時代もごく近いだろう、と奥さんは予想する。

 

【3】超小型ドリルでコレステロール削取

 

薬サイズのカプセル内視鏡を飲めば、負担のある胃カメラや大腸内視鏡検査をすることなく、画像診断ができる技術はすでに実用化されている。

 

「保険適用はクローン病患者や通常の内視鏡が困難な場合などに限定されていますが、オリンパス社が業界をリードしています」

 

このように体内からアプローチすることで、患者の負担を軽減する治療技術も、開発が進められているという。

 

「動脈硬化を起こし、狭窄してしまった血管内のコレステロールを削り取る超小型のドリル『ロータブレーター』という技術もすでにあります。これを使えば、直接的に血流を改善できるのです」

 

【4】“ゲノム編集薬”で病気にならない体に

 

「たとえば、お酒を飲んで気持ち悪くなったり、顔が真っ赤になる人は、アルデヒドという物質を水に分解する遺伝子の機能が弱いことが解明されています。遺伝子の機能は、別の遺伝子によって弱められているのですが、その邪魔な遺伝子を取り除く“ゲノム編集”という技術も、実現の道筋はついています」

 

狭心症や心筋梗塞などの心疾患や、がんにも発症にかかわる“遺伝的な因子”があることがわかっている。薬などを投与することで、これらの遺伝子を取り除いたり無効化することができれば“病気にならない体”を作ることが可能になるのだーー。

 

最先端医療が完成すれば、人間の寿命も飛躍的に延ばすことができると奥さんは語る。

 

「こうした技術が完成すれば、人間は120歳まで生きられる可能性が出てきます。人生はどんどん長くなることが考えられますから、諦めかけていた夢にまた挑戦する、高齢からでも新しい目標に向かって頑張るなど“生き方”も見直されることになるのではないでしょうか」

 

最先端の医療技術は、治療だけでなく、人生を変えるものになるはずだ。

 

「女性自身」2020年2月11日号 掲載

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