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「悪夢は、本人が対処できないストレスフルな出来事があると多く生じるものです。長期化する新型コロナウイルスの影響によって、心理的ストレスを感じている人がたくさんいるので、悪夢を見る人も増えていると思います」

 

こう語るのは、これまで国内外3,000人以上のサンプルを収集し、統計学の視点で夢の研究を続けている東洋大学社会学部社会心理学科教授の松田英子さん。

 

感染者数や死者数の多いアメリカ、フランス、イタリアの研究機関などが行った調査によると、新型コロナの影響で、怖い夢を見る人が増えているとの報告がある。

 

報道記事では、ロックダウンによって孤独感やストレスが高まり、悪夢を見たり、目が覚める回数が増えているとの内容も。

 

「日本の場合、欧米とは違って、死者数も数万人単位ではありません。本当にトラウマになるようなショッキングなシーンを目にしている人は少ないはずなので、自分や家族が死に直結するような悪夢を見る人も、比較的少ないと思います。原因はおそらく、目に見えない漠然とした恐怖と不安。日常のストレスから“イヤな夢”を見る人のほうが多いのでしょう」

 

新型コロナ発生後、松田さんが聞取り調査した60代女性・Aさんが見た悪夢の一例がある。夢の設定は、Aさんが古い家に引っ越したあとーー。

 

《せまい部屋で、実在の娘とAさんの妹、そして姪と一緒に寝ていた。Aさんはほかにも部屋があることに気づき、隣のドアを開けると、その部屋は薄暗く、しっとりしていてカビ臭い。部屋の中には、古い木製ケースに入った同じ楽器がたくさん並んでいた。するとその楽器から、聞き取れない声のような、怖い音が聞こえてきた。Aさんは恐怖のあまり体がかたまって声も出ず、ひとり震えながら元の部屋に戻ると、妹や姪たちから『感染するから近寄らないで!』と叫ばれ、飛び起きた》

 

「Aさんの場合、自分がウイルスに感染して、妹さんたちに拒否されるという筋書きでした。聞取り調査のなかでその理由を考えていくと、妹さんは姉妹のお母さんを介護している人。そして、姪ごさんは生後4カ月の乳児を育てている人でした。Aさんはふだんから、『もし自分が感染したら、この2人だけは絶対にうつしちゃいけない』という思いがあった。それが夢の中で『近寄らないで!』と拒否される形で表れたのだと思われます」

 

そして松田さんは、「悪夢には大きく分けて2種類ある」と話を続ける。

 

「いちばん強度の高い悪夢は、たとえば、東日本大震災で津波や火災で建物が崩れるといった、まさにその場に直面し、体験したものがそのまま夢に出てくるケース。いつも同じところで目が覚めて飛び起きるという、いわゆるPTSD(心的外傷後ストレス障害)性の悪夢。これは、毎回同じシーンがリプレーされるものです」

 

もう1つは、Aさんのように日常生活のなかで、何らかのストレスを感じているときに見るケース。

 

「仕事上の悩みや人間関係のトラブル。そして健康不安、法律上の事案など、その問題が克服されていないうちは、それが悪夢となって再現されることがあります。これは、“特発性の悪夢”といって、PTSD性の悪夢とは違い、テーマは共通していても、いつも同じストーリーでは出てきません」

 

過去に松田さんは、国内外の高校生から高齢者(65歳以上)まで約800人を対象に、悪夢に関する聞取り調査を行っている。そこで出てきた頻出語は、「逃げる」「殺す」「死ぬ」「亡くなる」「落ちる」「飛び降りる」といったもの。これらのワードは世界的にも同じで、世代も問わずほとんど共通しているのだそう。

 

「女性自身」2020年6月2日号 掲載

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