「65歳以上の人が発症するうつ病を『老人性うつ』といいます。この老人性うつは、認知症と症状が似ている部分もあり、見分けにくいんです。
認知症と思っていたら老人性うつだった、あるいは、それら2つの症状が合併しているケースもある。それだけ診断が難しいんです。
また、老人性うつが、認知症の発症リスクを高めることもあります」
えびな脳神経クリニック理事長で、同院認知症疾患医療センター長の尾﨑聡医師が、こう話す。
新年度の始まりの4~5月にはメンタルの不調をうったえる人が多いといわれるが、
「入社や転職、転勤、引っ越しなどの環境変化、人間関係の変化や緊張なども影響するのでしょう。 高齢の方は、若年層に比べれば環境の変化は少ないかもしれませんが、家族の状況変化に伴って老人性うつになる可能性はあります」(尾﨑医師、以下同)
そして、この老人性うつを含む精神疾患を有する高齢者が、近年増えているという厚生労働省のデータもある。
では「症状が似ている部分も多い」という老人性うつと認知症を、医療の現場ではどう見分けているのだろうか。
「たとえば『食欲が落ちた』とか『夜中に何度も目が覚める』という場合、本人も家族も『年のせい』と片付けがちです。しかし、不眠という症状は認知症の場合には少なく、うつの場合は多い。
また、物忘れでいうと、認知症の場合は、本人が物忘れを認めない傾向があるのに対し、うつの場合は物忘れの自覚が強く、本人がとても気にする場合が多いんです」 この物忘れが、1~2年単位と長いスパンで進んでいる場合は認知症を疑い、なにかの出来事などを境に1週間~2カ月などの短期で急激に進んだ場合は、老人性うつを想定すると尾﨑医師は言う。
さらに、忘れたことを思い出す検査をすると、認知症の場合は思い出せないことが多く、老人性うつの場合は思い出せること(=再認)も多いそうだ。