■正しい診断ができる医療機関は少ない
ところが、微小血管狭心症が認知され始めたのは2000年に入ってから。依然として、正しい診断ができる医療機関が少なく、多くの女性が“隠れ狭心症”に苦しんでいるのが現状なのだ。
「というのも、心疾患が疑われるときに行う心臓カテーテル検査(冠動脈造影検査)で可視化できる冠動脈は、全体のわずか5%に過ぎないため、微小血管狭心症の経験が少ない医療機関では異常が見つけられないからです」
そのため、医師から〈気のせいだ〉と言われ、精神科を受診するよううながされる患者もいるという。そうならないためには、まず私たちが微小血管狭心症の症状を知っておく必要があるだろう。
「一般的な狭心症では、ぎゅっと左胸が締めつけられるような胸痛が起きます。長くても十数分で治まるケースが多く、ニトログリセリンという薬を舌下で溶かして服用することでよくなります。
一方で、微小血管狭心症は、20分から数時間と長く続くのが特徴で、ニトログリセリンの効果も一定しません。また、動悸や息切れ、左肩や歯・あごの痛みといった放散痛、胃痛などの消化器症状を訴える方も少なくありません」
更年期障害や自律神経失調症などの症状とも似ているため、誤診されることも。ほかの心疾患と比べて〈死に至るほどではない〉と軽視されてきた微小血管狭心症だが、下川さんが研究代表者を務めた国際共同研究で、次のような事実も判明した。
「微小血管狭心症の患者の予後は、太い冠動脈に動脈硬化による狭窄・閉塞がある狭心症患者と比較して同等に予後が悪く、かつ性差や人種差がない国際的な健康問題であることが初めて明らかになりました」