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「常に考えているのは、自分がその立場だったらどうか?ということです。私自身だったら歯は1本たりとも絶対に抜きたくない。だから患者さんの歯もなんとか抜かずに生きながらえさせたいんです」

 

東京都小金井市で「藤井歯科医院」を開業してちょうど30年。明海大学歯学部講師として、歯科医の卵の育成にもあたっている藤井万弘先生。藤井歯科は最寄りのJR武蔵小金井駅から徒歩20分と決して好立地とは言えないながら、完全予約制で予約は常に数週間待ち。その理由は、口コミで広がった藤井先生の「根管(歯の根っこ)治療」技術の高さだ。

 

「言ってみれば、ここは根の治療の駆け込み寺。ほかの歯科医で『抜くしかない』と言われた歯をどうしても残したい人が、全国からやってきます。もちろん私も魔法使いではないので100%治せるわけではない。しかしとことんその人の根と向き合って、徹底的にきれいにする。根の治療は、結局それに尽きるんです」

 

そう言いながら藤井先生が手にしたのは、根の先端まで届き、洗浄した液を吸い取る根管バキューム。

 

「じつはこれ、自作なんですよ。根の先端は歯の奥にあって見えにくいし、清掃もしにくい。だから根の治療は根気がいるし、工夫も必要。いかに根の先端まで清掃するかを突き詰めていったら、使いやすい道具を自分で作るしかなかったんです」

 

現在、全国に歯科医院は約10万軒。藤井先生は、そのなかで50人しかいない根の治療の指導医の資格をもっている。歯の根を奥までしっかり見たい一心で、17年前に当時は珍しかったマイクロスコープ(歯の細部を見ることができる電子顕微鏡)を導入した。

 

「おかげで、根の先がどうなっているかは見えるようになりました。問題は、マイクロスコープで見えてはいる患部をいかに改善するか。そこはやはり歯科医の腕なんです。言ってみれば、根管治療は歯の基礎工事。これがおろそかだと後々痛みが出たり、結局歯を抜かなければならなくなったりするケースがある。私からするとありえない、ささいな歯科医の技術不足から、歯を抜いてしまっているケースも多いんですよ」