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ひとり暮らしの高齢者の命綱ともいえる訪問介護が今、大ピンチを迎えている。安倍政権が進める“介護保険制度の改悪”の一環で、厚労省は今年1月、「『要介護1、2』と認定された軽度者向けのサービスを、大幅に見直すことを検討する」と発表したからだ。具体的には「訪問介護」のうち、調理と買い物、掃除といった家事支援のサービスを、保険の給付対象から外すという。

 

介護にかかるお金は国が定める「介護報酬」によって決まる。仮に現在、訪問介護週1回あたりの利用料が2,500円程度の場合、介護保険の1割負担で支払う金額は約250円になる計算。それが、全額自己負担になってしまうと1カ月で1万円の出費に。

 

ただでさえ、受け取る年金は減らされているというのに、負担は増える一方。国は施設から在宅へ、高齢者に自立した生活をうながしておきながら、自宅で生活しづらい状況にしている。言っていることと、やっていることが本当に“アベコベ”だ。なぜ今、介護のサービスをカットしようという議論が出ているのか。淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授が説明する。

 

「介護保険制度は3年に1度、見直すことになっています。次回の見直しは’18年度。ちょうど今、厚労省の介護保険部会で専門家が集まって議論をしている最中で、その過程がときどきニュースで報じられるのです。来年の年明けごろに結論が出ますが、’18年度改正にはかなりの介護サービスのカットが予想されます」

 

要介護認定を受けている人は、全国で約618万人。これが決まってしまうと要介護1、2の人のうち訪問介護を受けている約60万人が影響を受ける。

 

「高齢化にともなって増え続ける社会保障費を、なんとか抑えようと国は躍起になっているのです。毎年、介護にかかるお金を3,000億〜5,000億円規模でカットしようとしています」(結城さん)

 

そのコストカットの“たたき台”が、1年ほど前、財務省主計局が公表した90ページ近い報告書「社会保障」。要介護・要支援1、2までの人が使う福祉用具や自宅のバリアフリー改修費も原則自己負担にするという案だ。

 

「手すりや歩行器を利用することは介護の重度化を防ぐだけでなく、転倒を防ぐ効果があります。1割負担がなくなって実費になれば、利用をあきらめる人が増え、転倒・骨折のリスクがいっそう高まります」

 

そう語るのは、墨田区なりひら高齢者支援総合センター(地域包括支援センター)の志賀美穂子センター長。

 

さらに要介護1、2の人のケアに関しては、国の予算から、自治体で実施する「地域支援事業」の予算に移す動きもある。そうなると、財政的に余裕がある自治体と、ない自治体との間で、サービスに格差が生じてくる。まさに高齢者に“介護難民”が急増するかもしれない現実に直面している日本−−。

 

6月1日、安倍晋三首相は、首相官邸で記者会見を開き、’17年4月に予定していた消費税増税を2年半延期すると名言した。消費税増税の延期は、一見、年金暮らしの高齢者にとっては朗報に聞こえるかもしれない。だが、税収が増えなければ、後々、“介護サービスの削除”という形で襲いかかってくることが十分考えられることを、有権者である私たちは、知っておかなければならない。

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