ネコの首輪に記憶媒体をつけ、マスコミに挑戦状を送りつけるなどして世間を騒がせたパソコンの遠隔操作事件。2月に逮捕された会社員の容疑者(30)は、ネコカフェに通うほどの無類の猫好きだったと報じられた。
千葉県柏市で’11年5月、2歳10カ月の男児がネグレクトの末、餓死するという事件が発生。逮捕された父親は「子供よりネコのほうがかわいかった」と供述したという。
ネコとは喜んでコミュニケーションを取るのに、人間がどんなに困っていても、手を差し伸べようとはしない、そんな感性を持つ人が近ごろ明らかに増えている。そこまでネコにハマってしまう心理とは何なのだろうか。
自身も6匹のネコを飼う精神科医の香山リカさんによれば、猫の行動は、人間にとって勝手に意味を解釈しやすいものなのだという。
「たとえば落ち込んでいるときにそばに寄ってきたら、飼い主は『私を慰めてくれている!』と思うでしょう。当たり前ですが、ネコはしゃべりませんから、人を批判もしません。見た目で相手を判断するようなこともない。現実社会の評価とは別の次元で、自分を慕ってくれていると飼い主は感じてしまうのです。これを無償の愛のように錯覚して、溺愛してしまうのも仕方ないかもしれません」
犬の場合は『うれしいと尻尾を振る』のように、感情表現がわかりやすい。それはつまり、犬のほうがネコより社会性の高い生き物だからだ。犬と付き合うには、ある程度のコミュニケーション能力が求められる。
「でも、ネコは思い通りにはいかない。それが気楽と考える人もいるわけです。コミュニケーションが苦手な人にとって、ネコはあこがれでもあり、自分を理解してくれる存在と思えるのでは」(香山さん)
しかし、ネコたちが自由にふるまっているというのも、実際は人間の勝手な解釈なのである。帝京科学大学生命環境学部で動物行動学を教える加隈良枝講師はこう語る。
「じつは、人間が思っているほどには、ネコたちは飼い主への強い思いは持っていないんです。落ち込んだときにそばに来るのも『ふだんと様子が違うから気になる』という程度の理由だったりする。帰宅した飼い主を出迎え、ついてまわるのも『人が来たから、何か面白いことが起きないだろうか』と、単に興味を満たすための行動です」