「僕の父は仕事一筋の公務員だったのですが、僕が高校3年生のときに転勤になったんです。それに、母が付いていったわけなんですよ。ということで、大学2年生の兄と高校1年生の弟と僕、3兄弟だけの生活がスタートしたのです(笑)。当時はコンビニなんてありませんから、食べるものは自分たちで作ることになったんですよ」
そう話すのは、連載30周年を迎えたご長寿料理マンガ『クッキングパパ』の作者・うえやまとち先生。好きな人はもちろんのこと、たとえ読んだことはなくても、タイトルを知らない人は少ないだろう。30年間ほぼ毎月描かれた料理は、この5月でなんと1千324皿に!そんな、クッキングパパ誕生のきっかけを先生が語ってくれた。
「まだまだ、『男子厨房に入らず』なんて言っている時代。でも、料理の楽しさを知っている僕からしたら、料理ができる男のほうがかっこよく映ったし、新しい生き方に思えたんです。僕にとっての『いい男』とは、家事も仕事もきちんと請け負う男でした。だから、子どもの担任の先生の名前を言えて、家事や子育てを当たり前にする男を描きたいと思ったんです」
今でこそ増えてきたイクメンの何倍も、時代の先を走っていた主人公の荒岩一味。総合商社でバリバリ働く営業二課の主任(当時)ながら、新聞記者の妻・虹子に代わって料理を一手に引き受ける姿が話題となったが、連載当初の荒岩は「料理男子」であることを隠していた。
「男が料理を作ると驚かれ、『どうして?』と不思議がられる時代でした。荒岩も料理が趣味ということを隠していた。毎日持参する自作弁当も妻が作ったことにしていましたし、テレビ局に勤める友人に請われて料理番組に出演したときもヘンな変装をしました(笑)」
連載開始から10年以上たった’96年の夏ごろに、荒岩は「料理男子」をカミングアウト。時代も「料理ができる男はカッコイイ」という方向にシフトしていった。
「それからは、荒岩の周囲の男たちが得意料理を披露するようになったりして、エピソードもわいわいと楽しいものが増えましたね。みんなで楽しく作る料理を描けるようになったんです」
ちなみに、連載開始当時の虹子は料理が苦手で、夫にまかせきりという設定だったが、先生ご自身の家庭は「家族全員料理好き一家」だ。
「かあちゃん(先生の奥さま)は、作品に登場する料理の最終審査員でもあります。だから、作品に登場するレシピのなかにも、彼女のアイデアをもらったものがけっこうありますよ。僕の娘も息子も料理好きになってくれました。うれしいですね。ご近所さんや友人たちも、おいしいものができるとレシピを提供してくれます。『クッキングパパ』のレシピは多くの人の協力とアイデアでできているんです」