「まもなく、お盆。きょうだいや親族一同が、実家に集まるこの時期は、親に遺言書を書いてもらう絶好のチャンスです」
そう話すのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。国税庁のデータでは、家庭裁判所への相続関係の相談件数は10年で約2倍に増えている。
「家裁の相続に関する裁判のデータでは、3割が1,000万円以下の財産をめぐる争いです。逆に、5,000万円以上の財産の争いは約2割。つまり、相続では、金額が少ないほどモメることが多い。そこでは嫁やきょうだいの配偶者が口を出し、露骨に金銭を求めたりして骨肉の争いになりがち。残された家族が、平穏に暮らしていくためにも、親が1人になったら遺言書を残してもらうべきです」
とはいえ、まず遺言書を親に書かせるのが至難の業というのが実情だ。
「『遺言書を書いて』と親に詰め寄るのは逆効果。『縁起が悪い』『早く死ねというのか』などと、へそを曲げられるのがオチ。それより、お盆の墓参りのタイミングなどで、『うちのお墓も古くなっちゃったわね。この先、どうする?』とソフトな話題から入っていくのがいいと思います」
500件以上の相続トラブルを扱ってきた大竹夏夫弁護士はこう語る。
「日本には遺言書を残すという文化が浸透していないのが、根本の問題。遺言書については、相続争いなどデメリットばかりが注目されますが、“人生の棚卸しになる”“作ったあとは自分も家族もスッキリする”といったメリットが多い。遺言に関する本やセミナーに参加してもらうなど、子は親に対して、書く“きっかけ”を作ってあげるというスタンスが大切だと思います」
2人がすすめる遺言書作成への第一歩となるのが、次の「財産チェックリスト」だ。
【現金】
□いくらか
□どこにあるのか
【預貯金】
□どの金融機関の口座にあるか
□いくらあるか
□通帳や印鑑の保管はどうなっているか
【株・有価証券】
□何がいくつあるか
□証券はどこにしまってあるか
□どこの証券会社と取引しているか
□時価はいくらか
【車】
□どこに何があるか
□評価額は
【骨董品・美術品・貴金属類】
□どこに何があるか
□評価額は
【生命保険】
□どこの保険会社に加入しているか
□証券はどこにしまってあるか
□契約内容は
□死亡保険金の受取人はだれか
【不動産】
□どこに何があるか
□評価額は
【負債】
□いくらあるか
□どこから借りているか
「遺産となるもののリストを作っておけば、負債も含めて、わが家の財産の現状が把握できて、この先にどんな準備や手続きが必要かも見えてきます。負債が多ければ、相続を放棄する必要があるかもしれません。いきなり財産リストの作成を言い出しにくければ、『いまはやりのエンディングノートだと思って一緒につけてみない?』と切り出してみては。リスト作成は、親の協力なしにはできませんから、手続きを中心になって進めるのは、そのときに親と同居している人か近所に住んでいる人がふさわしいでしょうね」(荻原さん)