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「8月27日、厚生労働省が厚生年金の収入要件の緩和を検討していることを日経新聞が報じました。これが行われれば、パート主婦にとって、大きな負担増にもなりかねない“新たな収入の壁”が生まれることになります」

 

こう話すのは、社労士、ファイナンシャルプランナーであり、WEB情報サイト「All About」マネー関連のガイドを務める拝野洋子さん。

 

「簡単に言うと、厚生年金に関するこれまでの壁が崩れ、新しく“82万円の壁”が生まれるのです」(拝野さん・以下同)

 

現在、パート主婦には、これを越えると所得税と住民税を払う「103万円の壁」、条件次第で厚生年金に加入の「106万円の壁」、条件にかかわらず年金に加入の「130万円の壁」、夫の税金が段階的に増えていく「150万円の壁」の4つの壁があるといわれている。そのうち、年金に関わるのが、106万円と130万円の壁だ。

 

「現在、月収8万8,000円以上(年収106万円以上)、勤務先の被保険者数501人以上などの条件を満たした人は、パートでも厚生年金と社会保険などの健康保険への加入が義務付けられています。この月収8万8,000円を、月収6万8,000円(年収82万円)に引き下げることが検討されているのです」

 

さらに年収130万円を超えると、勤務先の被保険者数に関係なく、夫の扶養を外れ、なんらかの公的年金に加入しなければならない。

 

「従業員数の要件の撤廃の話も出ています。これらの改正によって、厚生年金加入者は最大200万人も増えると予想されています」

 

仮に新制度が適用された場合、打撃を受けるのは、夫が会社員でパートをしている女性だ。

 

「夫の扶養家族として、年金や健保にほぼ0円で加入できていた人でも、年収82万円を超えると、保険料を支払わなければならない。年収82万円の場合、保険料は月に換算して厚生年金6,300円、健保3,900円。計1万200円も手取りが減ってしまうのです。現行の制度で手取り82万円の人が、同じ手取りを維持するには、額面で96万円を稼がなければなりません」

 

一方で、夫が自営業の主婦には恩恵がある。

 

「自営業の夫がいて、パートをしている妻は、国民年金に加入していることが多い。その場合、月の保険料は国民年金が1万6,340円、国民健康保険が約5,000円、合計2万1,000円ほど払っています。これが新制度では、年収82万円を超えると、国民年金と国保が厚生年金と健保に切り替わり、負担額が1万200円と半減するのです。もちろん、将来は基礎年金に2階建て部分の厚生年金が上乗せされて支給されます」

 

新制度適用の基準とされる年収82万円で、どのくらいの“上乗せ”があるのだろうか。

 

「10年間の加入で、年額4万5,000円、20年ならば倍の9万円が、生きている限り基礎年金にプラスされます。女性の平均寿命は90歳に迫る勢い。10年加入の場合で、年金生活が25年続くと、112万5,000円多くもらえます」

 

さらに、障害を負った場合に受け取れる「障害年金」も、国民年金より厚生年金のほうが手厚い。加えて、健康保険には、国保にはない「傷病手当金」がある。

 

新制度は自営業者の妻にとっては手放しで喜べる内容だ。しかし、現在は健康保険の扶養となっている場合の多い会社員の妻は、厳しい選択を迫られることになる。

 

仮に年収82万円で厚生年金と健康保険の保険料を10年間にわたり支払った場合、合計は122万4,000円。それと同額の年金“上乗せ”ぶんを受給しようと思ったら、92歳まで生きる必要があるのだ。

 

「国会での審議が通れば、早ければ’21年から、この新制度が始まるかもしれません」

 

いまパートをしている人や、これからしようとする人は、これからの3年に何をするべきか。

 

「新制度が始まったら、状況によっては条件に当てはまらないように、労働時間を調整したり、場合によってはパート先を変える必要が出てくるかもしれません。そうなった場合に備え、雇用保険に加入できるよう事業主と交渉してみましょう」

 

雇用期間が31日以上、週の労働時間が20時間以上などの条件を満たせば、パートでも雇用保険に加入可能だ。年収82万円なら、月の保険料は300円程度ですむ。

 

「会社を辞める以前の2年間に、1年以上の加入期間があれば、失業手当がもらえます。さらに、スキルアップするため、栄養士や社会福祉士など、給付対象となる取得講座を修了したら、年間最高40万円が給付されます」

 

どうしても“82万円の壁”を越えてしまうという人には、保険料を減らす裏技がある。

 

「これから、毎年4~6月は収入を抑えてください。厚生年金の支払額は、この3カ月の収入を基に、算出するためです。たとえば収入が月額6万3,000円以上~7万3,000円未満なら年金保険料は6,300円ですが、7万3,000円以上~8万3,000円未満と多くなると、月に保険料が900円割り増しに。健保を合わせると、年額1万5,000円以上の違いが出てきます」

 

新制度下で損をしないために、いまから賢く備えよう!

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