過去に大病を患った人でなくても「高額療養費制度」は必ず知っておくべき知識。制度を熟知することで、あなたの“老後の不安”が一つ消えるかもしれない--。
「重篤ながんになったとしても“医療費が払えなくて苦労した”という声はあまり聞きません。日本には『高額療養費制度』という、収入に応じて上限を設けて医療費の負担を抑えてくれる制度がありますから、一般的な保険診療であれば“実費で数百万円”なんてことにはならないのです」
こう語るのは、NPO法人「がんと暮らしを考える会」理事長・看護師の賢見卓也さん。
「ただし、すべて“病院におまかせ”というわけにはいきません。基本的に、こういった制度は、加入者自らが保険者(健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険など)に申請する必要があるからです。とりわけがん患者となると、診断直後は、家族みんなで慌ててしまうこともあるでしょう。だからこそ、元気なうちから、医療費についての制度とその手続きの仕方について十分に知っておいていただきたい」
賢見さんと社会保険労務士で同会理事でもある石田周平さんの2人に、月収に応じて5つに区分されている「自己負担限度額」について教えてもらった。
【「自己負担限度額」の早見表】医療費100万円、自己負担(窓口支払い)30万円(3割適用)の場合
□所得区分(ア)標準報酬月額:83万円以上(報酬月額81万円以上)/自己負担限度額:25万4,180円、支給額:4万5,820円/多数回該当の限度額:14万100円
□所得区分(イ)標準報酬月額:53万~79万円(報酬月額51万5,000円以上~81万円未満)/自己負担限度額:17万1,820円、支給額:12万8,180円/多数回該当の限度額:9万3,000円
□所得区分(ウ)標準報酬月額:28万~50万円円(報酬月額27万円以上~51万5,000円未満)/自己負担限度額:8万7,430円、支給額:21万2,570円/多数回該当の限度額:4万4,400円
□所得区分(エ)標準報酬月額:26万円以下(報酬月額27万円未満)/自己負担限度額:5万7,600円、支給額:24万2,400円/多数回該当の限度額:4万4,400円
□所得区分(オ)低所得者・市区町村税の非課税者など/自己負担限度額:3万5,400円、支給額:26万4,600円/多数回該当の限度額:2万4,600円
※「報酬月額」は一般的な月収。過去1年間に3カ月以上の自己負担限度額を支払った場合、4カ月目から「多数回該当」となり、月当たり上記減額が適用される。監修:石田周平さん
「自己負担限度額」について、詳しい数字を見ていこう。
■自分の収入から「自己負担限度額」を確認する
「高額療養費制度では、基本的に『自己負担限度額』以上を支払う必要はありません。たとえば月収50万円の世帯であれば、医療費が100万円かかったとしても、1カ月の上限である8万7,430円で済むわけです」(石田さん)
その仕組みは、「自己負担限度額」の早見表のとおり。条件はすべて「医療費100万円、自己負担30万円」の場合だ。
月収(報酬月額)は、区分(ア)「81万円以上」から(オ)「低所得者や非課税者」までの、5段階に分かれているので、自分が該当する世帯区分を確認してみてほしい。
たとえば区分(ウ)は月収27万~51万5,000円の世帯が対象で、標準報酬月額は28万~50万円となり、自己負担限度額は8万7,430円になるとわかる。
つまり自己負担の30万円から自己負担限度額8万7,430円を差し引いた21万2,570円が、高額療養費の支給額となる。
■「戻ってくるお金がゼロ」になるケースがある
「医療費は、すべて『暦月単位』(2月なら「1~28日」まで)で計算されます。たとえば月をまたいで翌月まで入院などをした場合は、当月と翌月の医療費が発生することになり、それは高額療養費の考え方では合算されません。するとそれぞれの月で自己負担限度額に満たないケースが生まれ、高額療養費の制度は使えなくなってしまうのです」(石田さん)
医療費50万円、自己負担(窓口支払い)計15万円(3割適用)、自己負担限度額8万2,430円の場合。月またぎで治療した場合、自己負担額の合算はできない。全額を月の1日~末日に支払えば6万7,570円還付されるが、月を真ん中でまたぐと0円に!
そうなるとこの約7万円の差に“月初めの入院や月末の退院”を希望する人もいるかもしれないが、賢見さんは「それはおすすめできない」として続ける。
「あくまで病気などの治療が目的ですから、“1日から入院”など計画的手段がいいはずがない。必ず医師に相談してください」