介護保険の助成金が使えるかも…老朽化した実家のリフォーム術

「人生100年時代といわれ、平均余命が延びる一方、これからの生活への不安から、余計な出費をしたくないと不便な一軒家に住み続けている高齢者が増えています」

 

そう語るのは、高齢者住環境研究所の溝口恵二郎さん。総務省の調査では、75歳以上世帯の約80%が自宅を所有している。災害が多かった今年、猛烈な台風やたびたび起こる地震に、離れて住む親、そして家を心配した人は多いだろう。高齢者の住宅建築やリフォーム工事に携わる溝口さんが続ける。

 

「60代でリフォームしている戸建てもありますが、子どもが独立して夫婦2人で住むため、あるいはきれいにするというアプローチでの改修がほとんど。シニアになってから起こる身体機能の変化には合わせていません。ちょっとした段差や滑りやすい廊下で転倒して、そのまま寝たきりになってしまうことが多いのです」

 

今は元気な親だが、いつか介護が必要になるかも……。しかも、築40年以上の家も珍しくない。家を建て替えるということも考えなければならないが、親の年金収入だけでは、家の建て替えなんて無理……と思う人もいるかもしれない。シニアライフアドバイザーの松本すみ子さん(有限会社アリア代表)が語る。

 

「10年ほど前に父が亡くなってから、母は仙台市内の家に1人で暮らしていたのですが、雨漏りがするし、庭には草がボウボウ。こぢんまりとした住宅に建て替えようと思い、その費用の一部を私が負担しようとしたところ、親名義の家の新築や改築費で110万円以上負担する場合は贈与税がかかることが……。さらに、母1人では住宅ローンが組めず、親から子に引き継ぐことができる親子リレーローンを組んだのですが、母が亡くなった後、私が住むわけでもない家のローンを、家が売れるまで返済し続けるのは大変でした」

 

最近では、高齢者でも持ち家に住み続けながら、自宅を担保にして、住宅関連費用が借りられるローンもある。

 

「住宅金融支援機構が扱っているリ・バース60は、毎月の支払いは利息のみで、死亡時に元金を一括して返済するタイプ。利用者の平均借入れ金額は1,000万円ほどで50%が年金受給者です。相続人が残った債務を返却する必要のないノンリコース型を選ぶ人が多いようです」(松本さん)

 

老朽化がそこまで進んでいなければ、建て替えまでせず、家の改修をするという手もある。

 

「内容によって工事費用は異なりますが、リフォームは建て替えよりもコスト面が大きく抑えられます。和式トイレを洋式に替える費用は20万円から。敷居の段差を解消するのに2万円ほど。水回りのトイレ、洗面所、浴室、台所をリフォームすると400万〜500万円かかると考えておけばいいでしょう。家に住みながら工事ができるため、引越し代など余計なお金がかからないこともメリットです」

 

親の家をリフォームする際、ぜひ知っておきたいのが補助金制度。

 

「親が要介護の場合には、住宅改修の費用への助成として利用できる介護保険制度があります。1人あたり20万円が限度額で、改修費用が収入に応じて1〜3割の負担に。たとえば、1本1万円で手すりをつけた場合、自己負担は1,000〜3,000円で済みます。また廊下の拡張や浴槽取り換えなど各市区町村による助成制度があります。たとえば東京23区では、深い浴槽から浅いタイプに変える工事に最大で34万円の給付金が出ます。工事を検討する際は、各自治体の介護保険課に助成金を相談してみてください」(前出・溝口さん)

 

実家を建て替え・リフォームする際に考慮しておきたいことは、次のとおり。

 

【1】後から手すりをつけるための壁下地を入れておく

 

玄関や廊下には後から手すりを設置できるように壁の裏に下地を入れておく。下地があれば、将来的に必要になった際、ホームセンターで手すりを購入し、個人で設置できる。

 

【2】扉は開き戸ではなく引き戸にする

 

押したり引いたりする開き戸は転倒のリスクがアップするだけでなく、車いすの移動時にも負担が多い。トイレ、浴室などは引き戸にすることで閉じ込められる危険性を回避。

 

【3】細かい段差をなくす

 

すり足で歩く高齢者にとっては、ささいな段差でも転んでしまい、骨がもろくなっているため大けがをする可能性が大。2〜3センチの小さな段差ほど、つまずきやすいので解消しておく。

 

【4】リビングの近くに寝室(ベッドスペース)を確保する

 

介護状態になった際、トイレや風呂場と同じ階に寝室があると移動が楽。リビングの一角にベッドを置く選択肢も。トイレと寝室の距離が近いと温度差によるヒートショック予防に。

 

【5】トイレは1畳分、風呂と洗面所はそれぞれ2畳分確保する

 

トイレ、浴室、洗面所などの水回りは、将来的に介助者が作業することも考慮し、なるべく広いスペースをとる。車いす生活でも十分な空間があるとスムーズに移動できる。

 

建て替えやリフォームをする際に、親の行動を見ておくことも大事。日本インテリアアテンダント協会の理事長で、株式会社デザインクラブ代表取締役社長の小川千賀子さんが語る。

 

「段差さえなくせば、バリアフリー化だと思っている人が少なくありません。しかし、高齢者といっても身体機能の変化はそれぞれ異なります。また、長年住み慣れた家であることから、あきらめや思い込みがあり、なかなか要望が出てこないケースが多い。親の家を改修する前に大切なことは、ふだんの生活をしっかり知ること。たとえば、洗面所で蛇口がきちんと閉められずにポタポタと水が落ちている場合、加齢により握力が弱くなっていることが考えられます。蛇口をハンドルタイプに替えることで不便さが解消されることもあるのです。業者任せにしないで、親が台所や浴室、トイレなどを利用する際に、何が大変なのかをしっかり観察して、どこに、なにが必要なのか探っていくことが大切です」

 

この冬、実家に帰省した際には、家の老朽化の状態と、親の動作をしっかり観察してみよう。

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