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「近ごろ、コロナ疲れからイライラする人が増えていますよね。そんなときは特に、自分と違う意見をもった人に対して『許せない!』という感情がわいて、SNSを中心に攻撃を始めたり……。私はこれを『正義中毒』と呼んでいます」

 

こう指摘するのは、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)の著者で脳科学者の中野信子さんだ。

 

「たとえば有名人の不倫問題にしても、“みんなのルール”を破るなんて許せない、と強い怒りの感情が暴走し、心ない言葉でたたきのめしてしまう。自分の生活には関係ない、見ず知らずの人に対してもです」

 

私たちは、この正義中毒の状態に簡単に陥ってしまうという。

 

「その根っこにあるのは“不安”です。不安が攻撃という行動に駆り立てる。今の時代、攻撃の輪はSNSによってすぐに広がり、そのなかで『それは責めすぎだ』という人が現れれば、今度は『そういうおまえこそ悪い!』と、新たな標的をつくっていくのです」

 

この正義中毒が増えている背景には、「ネット社会」と「自然災害」、2つの要因があるのだそう。

 

「ネット上は多様な意見があるように見えて、自分とは違う意見をスルーしやすい環境です。SNSでつながっているのは、じつは気の合う人ばかり。気の合わない人とは付き合う必要がありませんから。すると“同じ意見だけの繭”のような集団ができますよね。その繭の中では逸脱した人を発見しやすく、さらに匿名性という特徴も加わって、激しい攻撃へとつながっていくのです」

 

そして、もうひとつ。災害時に生まれる“みんなのための正義”が、思わぬ落とし穴になっている。

 

「危機を乗り越えるため、『みんなのために何かできないヤツは悪!』という発想ですね。個人の勝手は許されない。もちろん“一丸となって”という姿勢は美しいけれど、そこからこぼれ落ちる人を考慮できない社会です。こぼれ落ちた“異物”が自分たちの集団を台無しにする前に、“正義”であるわれらが先手必勝で攻撃しなければ、となるのです」

 

やっかいなことに、一度“正義の制裁”を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出されるという。中野さんはこれを“モグラたたきゲーム”のようだと指摘する。

 

「悪いヤツをやっつける快感を覚えると、またそれを味わいたくなって、次なるモグラをつねに探すわけです。そして、モグラが現れると反射的に攻撃する。この攻撃はもはや、エンタメ化しています」

 

そんな、許せない人が増える社会では、一方で「意見は言わないでおこう」という人も増えていく。

 

「これを『コーシャスシフト』といって、意見の違いを『危険だ』と察すると、人は無難なことしか言わなくなります。やがて、新しい意見は出なくなり、膠着状態に。また、今メディアで起こっているのは『リスキーシフト』といって、これとは真逆な現象です。煽れば煽るほど注目されるので、どんどん意見が過激になっていく。この両極端の状態はセットで起こるので、攻撃的な空気はいっそう加速していくのです」

 

中野さんは、かつて留学していたフランスで、考え方の多様性の大切さを学んだという。

 

「議論が好きな彼らは、自分と意見が違っても、その相手を否定しきることはありません。人格否定はダサいと考えているのです。『私はこう思う』『一理あるけど、ちょっと違うわ』と、10人いれば10の異なる意見を認め、そこから新しいものが生まれてくるのです。日本には“満場一致”をよしとし、そのために根回しをしてきた文化的背景があるかもしれません。でも、そういう時代は終わりを告げているように思います。誰かを攻撃しても、いっさいの生産性はありません。さらに、非常事態が続く世の中では、“絆”を声高に叫ぶよりも、1つより2つ、2つより3つの意見が、アイデアとなって誰かの助けになるはずです」

 

まずは、さまざまな意見や思考を否定しないことから。許し認め合うことで、精神と脳を健やかに保ち、困難な局面も乗り切ろう。

 

「女性自身」2020年4月28日号 掲載

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