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これからの時代の資産形成のキーワード「WPP」を知っているだろうか? WPPとは、第一生命・谷内陽一さんや日本の社会保障政策の第一人者である慶應義塾大学の権丈善一教授が提唱する、老後資金をまかなうための考え方だ。

 

「Wは、Working longerの頭文字で、できるだけ長く働くことです。一つ目のPはPublic pensionで公的年金のこと。二つ目のPはPrivate pensionで個人年金・自助努力を指し、iDecoや退職金、個人による預貯金や投資などが該当します」

 

そう語るのは、FPで夫婦問題コンサルタントの寺門美和子さん。貯金や投資も大事だが、人生100年時代の老後資金を考える際に重要になる考え方が「WPP」だという。

 

「『老後2,000万円不足する』という話がありますが、WPPの考え方では、できる限り長く働き、個人年金(貯金など)で中継ぎし、年金を繰り下げ受給(受給額を増加させ)します。それにより、自分で準備しなければならない“老後資金”の額をより現実的なものにするのです」

 

そこで寺門さんに、令和流・老後資金の考え方を教えてもらった。

 

【1】60歳で退職は古い 令和はWorking longer:長く働く

 

「投資もいいですが、働くことは最も単純にお金を増やす手段です。極端に言えば、死ぬまでずっとバリバリ働いていられるなら老後資金はいらないのです。

 

そもそも60歳で退職したとして、残りの人生は何年あるでしょうか? 厚生労働省発表の令和元年簡易生命表によると、男性が最も多く亡くなった年齢は88歳、女性は92歳。つまり定年後、男性の場合28年、女性の場合32年間生きることになります。60歳から88歳は一瞬だと感じるかもしれないですが、28年は28年。20歳から48歳までの人生を想像してみてください。その期間一切働かないのでは、お金に困りそう、というのはなんとなく思うところではないでしょうか?」

 

事実、寿命の伸びと共に、定年退職の年齢は上昇している。

 

「サザエさんの波平さんは、54歳の設定ですが、その当時(昭和40年代)の定年は55歳で男性の平均寿命は約65歳でした。つまり余命11年でも、まだ働いていたのです」

 

現在の定年は雇用継続期間を含めても65歳だが、それが今後引き上げられるとしてもおかしくない。事実’21年4月からは、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務とする「70歳就業確保法」が施行される。仮に働きたくなかったとしても、今後はできる限り長く働くことが社会のスタンダードになっていきそうだ。

 

【2】公的な終身保険を増額して受け取る Public pension:公的年金

 

長く働くことで、年金の受給開始を遅らせることもWPPの重要な考えだ。

 

「公的年金には“繰下げ支給”制度があり、通常65歳の支給開始時期を先延ばすことで、受給金額を終身で増やすことができます」

 

増加額は毎月0.7%。現在の繰り下げは70歳までで最大42%増だが、2022年4月からは、75歳まで繰下げ可能となり最大84%の増額となる。令和2年の国民年金(老齢基礎年金(満額))78万1,692円を基準とすると、70歳まで繰り下げれば受取額は年111万3円となり、75歳までくり下げれば143万8,313円となる。ただし、75歳まで繰下げをした場合、収入が増えることによる社会保険料の負担が増えることもあるため、その点には注意が必要だ。

 

「早く死んでしまったら損をする、と感じた人は、困窮しながら長生きするのとどちらが良いかを考えてみてほしいです」

 

また、少なくとも今の中高年は年金をもらえないということはないと寺門先生。ねんきん定期便は必ず開封し、見込額を確認したい。

 

【3】お金に余裕を持ちたいなら必須 Private pension:個人での貯蓄・投資などの備え

 

年金の受給を先延ばしにするために活用したり、年金では不足する額を埋めるのが個人年金・自助努力だ。寺門さんは、厚生年金のない個人事業主の方は特にしっかり考えて欲しいと語る。

 

「貯蓄で足りない場合、節税メリットもあるiDeco(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなどをぜひ活用してください」

 

iDecoは掛け金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税、受け取り時も一定金額まで課税されない。つみたてNISAは運用益が非課税となる。

 

「投資は怖い、というイメージを持つ方が多いですが、金融庁が作成した資料「つみたてNISAについて」によると《国民が安定的な資産形成を行うためには、長期の積立・分散投資が有効》であるとされており、つみたてNISAは国のお墨付き資産運用制度なんです」

 

同資料によると、国内外の株式・債券に分散投資した場合の収益率について、保有期間5年の場合の投資収益率(年)はマイナス8%から12%の間でばらつくが、保有期間20年の場合は、投資収益率2~8%(年)に収斂されるという。また、分散投資を行うことである金融商品が値下がりした場合でも、他の金融商品の値上がりによりカバーされる可能性が上がりリスク減につながるのだ。

 

「3つの柱で構成されるWPPですが、どれか1本あれば安泰というものではありません。一つ一つが細くても本数があることでカバーされるものと考えていただきたいです」

 

令和の老後を不安なく過ごすには、貯蓄だけでなく、長く働ける体づくりや公私年金の受給や投資テクニックなども大切なのだ。

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