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一定の収入がある75歳以上の人が病院に支払う医療費を2割に引き上げる「医療制度改革関連法案」が2月5日、閣議決定された。2割負担になるのは、単身世帯で年収200万円以上、夫婦ともに75歳以上だと年収合計が320万円以上の人など、後期高齢者の約20%にあたる約370万人だ。そんな高齢者の医療費増について、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれたーー。

 

■現役世代の負担は依然大きいまま

 

現在の後期高齢者医療保険では、単身だと383万円を超える現役並みの所得の方は3割負担ですが、それは後期高齢者の約7%。それ以外ほとんどの方が1割負担です。

 

引上げ対象の方は「1割負担が2割になれば倍増だ」と心配かもしれませんが、緩和措置もあり単純に倍増にはなりません。

 

まず導入予定は、’22年10月〜’23年3月です。いま閣議決定の段階ですから、今後国会審議を経て法律が制定されます。コロナ禍のいますぐではないのでご安心を。

 

次に、医療費負担を抑えるためには「高額療養費制度」があります。高額療養費制度は、収入や年齢に応じて、医療費の毎月の自己負担額に上限を設け、上限を超えて払った医療費は申請すれば返金される制度です。2割負担対象の方だと、自己負担の上限は月5万7,600円。夫婦とも75歳以上なら、夫婦の医療費を合算しての上限が5万7,600円です。

 

たとえば入院などで医療費が月100万円かかると、2割負担なら病院窓口で20万円必要ですが、高額療養費を申請すれば、自己負担は5万7,600円で済み約14万円が返ってきます(事前に申請すれば、窓口での支払いを上限額までにする方法もあります)。

 

さらに、緩和措置もあります。2割負担導入から3年間は、外来受診による負担増を月3,000円以内に抑える措置が取られます。

 

現在1割負担の高齢者が病院窓口で支払う医療費は、平均で年約8万3,000円です。これが2割負担になると年約11万7,000円に増えると試算されますが、緩和措置があれば年約10万9,000円に抑えられるといいます。負担は倍増ではないものの、対象者に重くのしかかることには違いありません。

 

それでも高齢者に負担を強いるのは、団塊の世代が’22年から後期高齢者になりはじめ、医療費がますます逼迫する大問題があるからです。後期高齢者医療保険は、高齢者の窓口負担や保険料と税金に加え、現役世代の健康保険組合からも支援金を拠出しています。その支援金は現役世代1人あたり、’21年度には年約6万4,000円ですが、’25年度には年約8万円と、どんどん重くなっていきます。

 

しかも、高齢者に2割負担を導入しても、現役世代の’25年度負担は年800円軽減されるだけ。これは改善の糸口にすぎないのです。

 

“薬漬け”といわれる過剰な医療のムダを見直し、コロナ禍でも安心して、だれもが必要なときに適切な医療を受けられる医療体制と、社会保障制度の抜本的な改革を、政府には望みたいものです。

 

「女性自身」2021年3月2日号 掲載

経済ジャーナリスト

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