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「柔道家の古賀稔彦さん(享年53)の訃報に接し、『夫がもし明日、がんになったら……』と“自分ごと”として受け止めた方も多いのではないでしょうか」

 

こう話すのは、NPO法人「がんと暮らしを考える会」理事長の賢見卓也さん(45)だ。

 

50歳ごろまでは女性のほうががんに罹患する人は多いが、50歳ごろから男性の罹患者が急激に増え、女性を追い抜いていく。まさに50歳は男性とがんの関係のターニングポイントなのだ。

 

在宅緩和ケアの訪問介護を行ってきた看護師でもある賢見さんは、’13年に、がんになったときに利用できる各種制度がわかるサイト「がん制度ドック」を開設した。

 

「患者さんと接するうちに気づいたのですが、がんを患ったときに治療費がどれくらいかかるかわからなかったり、使える公的な制度を知らず、お金に困ったりする人が多いんです。がんとお金のことは切り離せないと思いました」

 

がんについて真剣に考えることは、お金についても考えること。

 

そこで、今回は夫ががんになった場合の「お金」を試算してみたい。中小企業に勤める一般的な収入の会社員の夫と、専業主婦の妻からなる夫婦がともに50歳になったとき、夫のがんが発覚したと仮定。家計への影響を試算する

 

「がんといっても、さまざまなものがあります。今回は、発見されたときのステージによって治療の方法や期間に大きく差が出る直腸がんで試算しました」(賢見さん)

 

〈今回の試算の前提〉

 

夫婦ともに1971年1月1日生まれ。夫は1993年に22歳で大学を卒業後就職。以後、50人程度の社員の会社に就職し、昇給していった※1。妻は会社員として働いた経験はなく、ずっと専業主婦。50歳の時点ですでに子どもは独立している。ともに基礎年金の未納期間はない。妻は一般的な女性の死亡年齢に近い、89歳の誕生日に死亡した※2。

 

※1:給与額は国税庁「令和元年分 民間給与実態統計調査」の「事業所規模別及び年齢階層別の給与所得者数・給与額」より30人以上100人未満の企業の男性の平均給与で計算、退職金は東京都労働産業労働局「令和2年版 中小企業の賃金・退職金事情」のモデル退職金(50〜99人の企業)の定年退職金額と勤続30年時の会社都合退職金額を使用。※2:夫婦ともに健康な場合の死亡年齢は、厚生労働省の「簡易生命表(令和元年)」による50歳の平均余命を参考にした。

 

【ケース】50歳で、夫のステージ4のがんが発覚し、1年で亡くなった場合

 

まず、かかる医療費を考えてみよう。全日本病院協会の「診療アウトカム評価事業」の「’19年度年間集計」を参考に試算した。

 

「ステージ4の場合、年間の医療費は98万352円です。これに末期がんの緩和ケアを20日行ったとして、104万1,400円を加えて、202万1,752円がかかったお金。健康保険は3割負担なので、約60万7,000円が実際に払うお金です」

 

1カ月におよそ5万円。がんだからといって、とてつもなく高額な治療費がかかるわけではない。

 

「健康保険の対象である標準治療であれば3割負担ですし、1カ月に一定以上の負担額があった場合、お金が還付される『高額療養費制度』もあります」

 

病気で働けなくなっても、収入はすぐに途絶えない。社会保険労務士の石田周平さんが解説する。

 

「病気で休職しても、給与の約3分の2が『傷病手当金』として最大で1年半受給できます。年収を581万5,000円と仮定するなら、387万6,000円が傷病手当金の額ですね」

 

会社員がもっとも収入が高いのは50代だといわれている。働き盛りで亡くなってしまうと、家計にも大きな痛手となる。

 

厚生年金の受給資格がある夫が亡くなった場合は、妻は「遺族厚生年金」を受給できる。51〜64歳は「中高齢寡婦加算(令和2年度は58万6,300円)」が、65歳以上からは自らの「老齢基礎年金(満額で約78万円)」が加わる。

 

「遺族厚生年金は、再婚などしない限り、妻が死ぬまで、亡き夫が65歳でもらうはずだった老齢厚生年金の4分の3が支給されます。厚生年金の額は、それまでに払ってきた保険料の額で決まる。当然、納付期間が長く、保険料も高額なほど、高い年金がもらえます」

 

今回のケースで、50歳時点での夫の厚生年金の額から計算した遺族厚生年金の額は58万8,000円。「寡婦加算」とあわせても117万4,000円と、月に10万円に満たない。潤沢な貯蓄でもない限り、妻も働くことを検討すべきだろう。65歳からは自分も老齢基礎年金を受給できるようになるので、家計は少し楽になる。

 

50歳から妻が平均寿命で亡くなるまでの家計の収入は6,116万円。夫が健康だった場合は1億4,636万円だから、8,520万円も減る。

 

今回の金額はあくまでも試算。がんの症状は人によって違うし、かかる治療費やもらえる年金額なども当然違ってくる。だが、一定の目安にはなるだろう。

 

「夫ががんになったら、ますは、『職場の制度』として何が使えるかを確かめてもらう。公的制度に関しては、病院の『がん相談支援センター』などに資料があります。病院にはソーシャルワーカーさんもいますので、窓口で聞くことができます」(賢見さん)

 

何より、がんは早期発見し、適切な治療ができれば“治る病気”。夫婦で必ず定期的に検査を受けつつも、いざというときの心とお金の準備を怠らずに。

 

「女性自身」2021年5月4日号 掲載

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