「近年、ゲリラ豪雨や線状降水帯がもたらす降雨量の増加は、全国各地で土砂災害のリスクを高めています。土砂災害というと、今回の土石流が発生した熱海市のような山間部で起きると思われがち。しかし、都市部でも災害の可能性があるのです」
こう警鐘を鳴らすのは、地震や水害など過去に起きたさまざまな災害のデータをもとに分析を行っている、災害危機コンサルタントの堀越謙一さん。
国土交通省によると、土砂災害防止法に基づく「土砂災害警戒区域」は全国に約66万3,000カ所。そのうち、住民等の生命または身体に“著しい”危害が生ずる恐れがあるとされる場所は「土砂災害特別警戒区域」として、約54万9,000カ所も指定されている。
そこで堀越さんに、大阪、名古屋といった都市部で土砂災害が懸念される場所を抽出してもらった。
「分析では、ハザードマップによる土砂災害特別警戒区域や『急傾斜地崩壊危険箇所』などのデータをベースに、地形、地質についても調査。さらに熱海市でも問題視されている盛土によってつくられた造成地にも焦点を当て、土砂災害の可能性について検証しました」
■「大阪府」土砂災害警戒区域…8,372カ所/土砂災害特別警戒区域…7,776カ所(令和3年6月11日現在)
【1】池田市五月丘3丁目、渋谷3丁目、畑4丁目
空港や高速道路があって都心へのアクセスがしやすく、住宅が多い池田市。市街地の北部には山があり、山地からの出水による浸水や、土石流のリスクがある地域。大量の降雨によって土砂災害の危険性が懸念される。
【2】吹田市千里山西4丁目、佐井寺2丁目、山田西1丁目
大学や住宅地がある吹田市には、谷や沢を埋めたり、傾斜地に盛土をするなどしてできた大規模造成地が数多くある。土砂災害特別警戒区域の指定箇所も点在していて、豪雨や地震による崖崩れや土石流、地すべりの懸念が。
【3】寝屋川市太秦中町、成田東が丘、三井が丘2丁目
低地は泥土が固まった軟弱地盤で形成されている。寝屋川市東部地域には、浸食でできた谷地に土を盛って造成された地域が多く、また住宅密集地域には傾斜が厳しく、崩壊の危険性がある場所が複数存在している。
■「愛知県」土砂災害警戒区域…1万6,988カ所/土砂災害特別警戒区域…1万5,218カ所(令和3年6月29日現在)
【1】名古屋市瑞穂区彌富町、田辺通3丁目
古くからの住宅と、商店や工場が混在した瑞穂区は、浸食によって削られた高低差のある地形でもある。彌富町、田辺通3丁目周辺では、幹線道路沿いを含む複数の箇所に土砂災害特別警戒区域が点在している。
【2】名古屋市緑区鳴海町、大高町
浸食によってできた階段状の地形であり、崖崩れや土石流、地すべりなどの土砂災害のリスクが。’00年9月に起きた東海豪雨災害では名古屋市緑区鳴海町に位置する市道脇の斜面が崩壊し、死者を出している。
検証の結果、大阪の郊外には、丘陵地に大規模な盛土で造成された土地が数多くあることを再認識させられたという。
「豪雨によって地盤が緩めば、都心部でも、土砂災害は発生するでしょう。ただし、土砂災害が起こる場所の多くは、ハザードマップなどで予測できます。自分の住む場所の情報を得ることが重要です」(堀越さん)
※ハザードマップと地質の情報をもとに、堀越さんが大都市圏で特に危険性の高いと考えられる箇所を選んだ。今回掲載したもの以外にも、危険な地域はあるので、ハザードマップは必ず確認してください。