夫婦でいろいろなライフステージを乗り越え、やっとできた自分時間。そんなとき、頭をよぎるのは「離婚」の2文字。今まで我慢していたことから解放されたいのが本音です。でもやはり心配なのは先立つもの。そこで、「卒婚」という“心にも財布にも優しい”選択−−。
「人生の後半戦を充実させるため、『卒婚』を選択する夫婦は増えています。この形態は『いいとこどり』といえそうです」
こう話すのは約3万件の夫婦の問題に向き合ってきた離婚コンサルタントの池内ひろ美さん(59)。
「卒婚」とは、離婚せずに夫婦関係を卒業すること。同居するケースもあるが、多くは別居しお互いに束縛や干渉し合うことなく生きる、新たな選択である。池内さんは「卒婚」のメリットをこう解説する。
「離婚するには財産分与の問題や、お互いの両親や周囲への報告をどうするか、決めるべきことが多々あり、エネルギーと覚悟が必要です。一方、『卒婚』であるなら束縛や干渉からは解放され、不動産や預貯金、死亡保険金などの相続権は担保されるのですから、生活力のない側には有利といえます」(池内さん)
離婚とは違う、「卒婚」最大のメリットは次の3つだ。
・束縛から解放。自由に生きられる
・相続権や遺族年金、保険金といった妻の権利は担保される
・老後一人きりの不安が軽減される
「『卒婚』を申し出るのは圧倒的に妻側です。昨今の断捨離ブームもあるのでしょう。女性は新しい生活や仕事に邁進したくなると、うっとうしい夫も“断捨離”してしまいたくなるようです。一方、男性は『慣れ親しんだもの』に愛着を覚える習性がある。離婚だけは回避したいと主張する夫は多く、卒婚に抵抗するケースも。ですから卒婚を思い立ったら、それなりの準備やルールがあります」
こう話すのは離婚専門弁護士として活躍する原口未緒先生だ。卒婚に先立ち、やっておくべきことを教えてもらった。
【「卒婚」に際し決めること・心がけることリスト】
・月々出してもらう生活費を決める
・別居までに夫婦の財産をすべて洗い出す
・冠婚葬祭への出席や家族への報告をどうするか決める
・夫を独居トレーニングする
・「離婚」という言葉を安易に出さない
・「あなたのここが嫌いだった」などと指摘しない
・卒婚後のライフプランを立てる
「月々の生活費の取り決めや、いまある財産を洗い出す作業は必須です。のちのち『勝手に使った』と言われないよう金銭面については覚書を交わしてシビアに管理・把握することが大切。またやるべきは自分のことだけではなく、お互いの家族にどこまで説明するか、共通認識を持つこと。そして家事のできない夫を置いていくのなら、ゴミの出し方など独居トレーニングもしてあげましょう。家がゴミ屋敷になったり、夫が不摂生で病気になると、早々に家に戻るはめになるでしょう」(原口先生・以下同)
禁止事項もある。夫には、「あなたのここが嫌いだった」など欠点を指摘するのは厳禁だという。
「卒婚をするのなら夫の嫌なところは許すことです。いつかどちらかに介護が必要になったとき、再同居する可能性もあるからです。『恋人ができた』などと決定的な決別・亀裂になることをわざわざ告げるのも得策ではありません」
何より「卒婚」によって実現したい目標を定めておくことが大切と、原口先生は勧める。
「鬱陶しい夫と離れたいためだけの卒婚はおすすめできません。あなたの人生をどう充実させるか、目標を明確に決めておく必要があります。いまの仕事をもっと極めたいのか、それとも資格を取って人助けをしたいのか、実家の親と暮らして最後の親孝行をしたい、という人もいるかもしれません。『卒婚』してみたけれどこんなはずじゃなかった、という空虚さに苛さいなまれないよう、せっかく手に入れた時間を大切にしましょう」