■認知症が発症してからでは打てる手が限られる
親の判断能力が失われた後では、成年後見制度による「法定後見」しか選択肢がないのが実情だという。
「法定後見は、家庭裁判所に家族などが申立てをすることで後見人が決まります。後見人の主な役割は、医療機関や介護保険サービスの手続きなどを親に代わって行う身上保護と、預貯金や不動産などの管理をする財産管理の2つがあります。ただし、後見人は家庭裁判所が決めるので、家族よりも弁護士や司法書士といった専門家が選任されることがあり、そうした専門家に支払う報酬が毎月かかってきてしまいます。また、親本人が亡くなるまで後見は続き、途中でやめることができません」(元木さん)
法定後見は手続きが煩雑なので、専門家に依頼して進めるケースがほとんど。後見人の報酬額は管理対象となる財産の額によって変わってくるが、目安で月額2万〜6万円程度とされている。
■財産を凍結させないための7つの選択肢
「遅くとも親の年齢が80歳になるまでに財産凍結を防ぐ対策をスタートさせたほうがいいでしょう」
そう話すのは司法書士法人ミラシアの司法書士、永井悠一朗さん。
「財産凍結の対策として、まず行わなくてはならないのが、親の財産の棚卸しです。預貯金であれば、銀行口座をどこに、いくつ持っているのかを確認すること。たくさんの口座を持っているなら、1つにまとめておくとよいでしょう。また、定期預金も解約して普通口座に移しておくとよいでしょう。株式や投資信託などは、本人が元気なうちに現金化しておくという選択肢もあります」(永井さん)
凍結対策を考えるうえでポイントとなるのが、「誰が親のお金を管理するのか」ということ。 図(画像参照)は、代表的な財産である「預貯金」の管理方法についてまとめたチャートだ。管理するのは「家族」か「第三者」か、そして、「とにかくコストを抑えたい」のか「万全な口座凍結対策をしたい」のかによって取るべき選択肢が変わってくる。
「とにかくコストを抑えたい、簡単に済ませたいという人は、本人と生計を一にする家族などが使えるキャッシュカード『代理人カード』を銀行で発行してもらうといいでしょう。また、親との間で『財産管理委任契約』を結んでおけば、すべての口座を漏れなく管理することができます。ただし、これらは親の認知症が進行してしまうと、取引ができなくなる場合がありますので注意が必要です。万全を期すのであれば、費用はかかりますが、『家族信託』の公正証書を作成しておくという手がありますし、裁判所や専門家に監督してほしい、ということであれば『任意後見制度』を活用するという方法もあります。『生前贈与』も選択肢の1つです。贈与税には注意が必要ですが、親の財産の一部を、生前に子どもへ移しておくことで凍結を回避できますし、同時に相続税対策にもなります」(永井さん)
永井さんによれば、親族間が不仲で相続トラブルを回避したいという人は、第三者にお金の管理を任せる方法がベストだという。
前出の「任意後見制度」のほかにも、まとまった資金を預けておき、認知症になったときに施設などへの支払いを金融機関が行う「信託銀行の認知症対策サービス」や、市区町村の社会福祉協議会が公共料金の支払いや預貯金の通帳の管理をしてくれる「日常生活自立支援事業」も選択肢になる。
【PROFILE】
元木翼
司法書士、行政書士。司法書士法人ミラシア、行政書士法人ミラシア代表社員。相談業務や講演活動のほかメディアにも多数出演。近著に『親の財産を“凍結”から守る認知症対策ガイドブック』(日本法令)がある
永井悠一朗
司法書士。専門は相続、遺言、後見、家族信託。これまで100件以上の家族信託の組成に携わる