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政府は3月7日、マイナンバー法などの改正法案を閣議決定しました。税と社会保障、災害対策に限られた利用範囲を拡大する方針です。もっとも大きな改正ポイントは、紙の健康保険証を廃止しマイナンバーカードと一体化することです。

 

とはいえ、マイナンバーカードの取得はあくまでも任意で、持たない選択もあります。国はマイナンバーカードを持たない人には保険証の代わりに「資格確認書」を無料で提供するとしています。ただ、資格確認書の有効期限はわずか1年。毎年更新の可能性があり、医療費もマイナ保険証より高くなるよう設定されています。

 

国はこれまでのマイナポイントを配る“アメ”政策から、今後はマイナ保険証がないと手間と費用の両面で損になる“ムチ”政策に転換するのでしょう。マイナンバーカードの申請状況は4月9日時点で76.5%(総務省)ですが、保険証を廃止してもっと広く全国民に行き渡らせようとする、マイナンバーカードの事実上の義務化にほかならないと思います。

 

■全国民の口座登録が政府の目標か

 

これらはデジタル化政策の一環といわれますが、デジタル化すれば生活は便利になるのでしょうか。

 

たとえば、マイナ保険証を機械で読み取れば、病院の受付時間は短縮されるでしょう。しかし、マイナ保険証は受診のたびに持参する必要があります。従来の保険証は月1回でよかったにもかかわらず、これでは紛失も心配です。

 

また、マイナ保険証は5年更新で、2年更新の保険証より期間は延びます。しかし、更新時期に手元に届き交換するだけの保険証と違い、マイナ保険証は市役所などに自ら出向いて手続きしなければなりません。作成時に指定したパスワードを数回間違えるとロックがかかって手続きできないことも。

 

さらに重大な改正ポイントは、公金受取口座の登録促進策です。国は年金受給者に「年金口座を公金受取口座に指定するか」という確認書類を送り、同意した人に加えて「一定期間返事がない人も同意したとみなす」といいます。つまり「同意しない」と返事した方以外は全員、年金口座が公金受取口座に紐づけられてしまうのです。

 

私たちはさまざまな契約で同意を求められますが、「同意しない」を選ぶことはあまりなく、隅々まで読まずに同意する方もいるのでは。また、提出を忘れることもあるでしょう。こうした手続きで同意とみなされることに“だまされた感”を持つのは私だけでしょうか。

 

これは年金受給者だけの問題ではありません。当初は年金受給者が対象ですが、そのうち児童手当の受給者などにも広げ、いつの間にか全国民の口座登録完了を目指しているのだと思います。

 

マイナンバー法などの改正案はすでに閣議決定され、与党が圧倒的多数の国会で覆すのは容易ではありません。ですが生活に関わる大問題。厳しい目を向け、私たちも声を上げていきたいと思います。

経済ジャーナリスト

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