■夫の死後に妻が生活保護になった例も
なぜ、独り暮らしの高齢女性は貧困に陥りやすいのだろうか。前出の吉中さんはこう語る。
「高齢夫婦の場合、働きに出ていた夫に厚生年金が上乗せされ、家庭を任された専業主婦は基礎年金のみというケースが多いです。夫婦でいれば生活できますが、単身になると、途端に女性は年金額が少なくなってしまいます。
さらに、働いていたとしても、男女間の不平等な賃金格差や労働環境が年金額に影響を与えます。その結果、“年金加入状況の成績結果”があらわれる65歳を境に、女性の貧困率が高まるのです」
だが、“成績結果”は人によって異なる。厚労省のデータによると、未婚女性の年金の平均受給額は月11万9000円ほどなのに対し、離婚した女性は月8万9000円ほどだ。一方、夫と死別した女性は月12万1000円。
前出の阿部教授の調査によると、65歳以上の女性の婚姻状況別の貧困率は、未婚が43.1%、離婚が43.6%、死別が32%だった。
ただし、これは子供や親と同居している世帯を含む、独居に限らない数値。独り暮らし女性に限れば、数値はもっと高くなるとみられる。一方、既婚女性の貧困率は13.5%だ。
具体的に見てみよう。
未婚の高齢女性は、自分で働いて生計を立ててきた場合が多いが、現役時の働き方によって、年金の受給額は異なる。
非正規労働者やフリーランスとして働いてきた人は、現在、月額6万6250円が満額(67歳以下)の国民年金(基礎年金)だけしか受給できないことが多い。一方、正社員や公務員として働いてきた人は、基礎年金に加え、現役時の収入に応じた厚生年金の比例報酬部分を受給することができる。
しかし、前述のように、日本は男女間の賃金格差が大きい。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本の男女間の賃金格差は21.3%と、世界平均11.9%の約2倍もある。仮に厚生年金を受給していても、貧困に陥らないとは限らないのだ。
離婚した場合、前出のA子さんのように“年金分割”が受けられるが、ファイナンシャルプランナーで夫婦問題コンサルタントの寺門美和子さんはこう指摘する。
「年金分割とは、婚姻関係があった期間、夫が納めた厚生年金の一部を、離婚後も受け取れる制度です。しかし、みなさんが期待しているほど多くはありません。平均月3万円といわれており、どんなに多い人でも5万円くらいで、家賃にも満たない額なのです」
さらに、離婚から2年以内に手続きを行わないといけないが、制度を知らずに手続きを怠り、もらいそびれる人も多いという。
婚姻状況別貧困率でもっとも低かったのは夫と死別した高齢女性。夫が厚生年金の受給者だった場合、死別後も妻は基礎年金とは別に、夫の厚生年金の比例報酬部分の4分の3を受け取れる、遺族厚生年金の制度があるためとみられる。
しかし、夫が自営業やフリーランスで国民年金のみの受給だった場合は悲惨だ。国民年金だけの人にはこのような制度がないからだ。
「厚生年金がない自営業の夫に先立たれた別の女性は、基礎年金が月3万5000円ほどだったため、夫の死後、生活保護を受けました。最後は施設で亡くなりましたが、葬式も質素なものしかできませんでした」(前出・寺門さん)
2017年の厚労省の資料によると、夫と死別した65歳以上の女性で遺族厚生年金がある場合の年金の平均受給額は月13万7000円だったのに対し、遺族厚生年金がない場合は6万6千円と、半分以下になってしまう。
しかし、遺族厚生年金にも“落とし穴”があると寺門さんは言う。
「ある女性は、自分も働いていて厚生年金に加入していました。サラリーマン経験のある夫を亡くした際、自分の老齢厚生年金のほうがわずかに高かった。年金は“一人一年金”の原則があり、その女性は自分の厚生年金のほうを受給することにしたのですが……。お互い月13万~14万円の年金をもらい合計30万円弱で生活していたので、夫の死後、収入は半減したのです」