■減便や廃止を食い止めるべく行政も糸口を模索
「乗りたい時間に、乗りたい系統のバスがぜんぜん来ない。減便を知らず、バス停で長時間待たされた」
こう嘆くのは、横浜市在住の60代女性。今年4月、1カ月間に2度もダイヤ改正するという異例の事態で減便を発表した横浜市営バスの利用者だ。いっぽう、「バスをあてにして免許を返納してしまった」とこぼすのは、千葉市に住む70代の女性。彼女はやはり大幅減便に踏み切った小湊鉄道バスを利用しているが……。
「バスの減便で平日は通院にも事欠き、土日は最寄りバス停を発着するバスが一本もなくて、買い物にすら行けない。まさか自分が買い物難民になるとは思いもしなかった。免許返納を後悔している」
社会に暗い影を落とす路線バスの減便・廃止問題。だが、行政や事業者もただ手をこまねいているわけではない。解決の糸口を模索する動きも広がりを見せている。
注目されているのが、大型免許の保有率の高い自衛官だ。「退官後のセカンドキャリアにバス運転士を」と、全国の運輸局が退官間近の自衛官向けに説明会や運転体験会を頻繁に開催しているのだ。
いっぽう、警察庁は道路交通法の施行規則改正・緩和を検討。2027年度を目標に、バスなど大型車にも、普通車同様のオートマチック車(AT)限定免許の導入を計画している。比較的容易に取得できる免許制度の導入で、運転士のなり手を少しでも増やそうというものだ。
ただ、退官自衛官にしろ、AT限定免許導入にしろ、問題解決の即効性という点では疑問符もつく。
そこで着目したいのが昨今、ニュースなどで取り上げられる機会も多く、条件付きながらすでにサービスがスタートした日本版ライドシェアだが……。吉田教授は「路線バスの代替案にはならない」と否定的だ。
「自家用車活用事業(ライドシェア)は、各自治体の地域性や事情を理解する地域公共交通会議(法定協議会)ではなく、国が音頭をとって進めています。なので、きめ細かな、かゆいところに手が届くようなものにはならない可能性が高い。なにより、1台で数十人を運べるバスをライドシェアに置き換えるには、少なくとも十数台が必要になるわけで、物理的にも難しいと言わざるをえない」
■公的支援に加え利用者の負担増も避けられない
では、直面する問題を解決する方法は皆無なのだろうか。吉田教授は「利用者も含め、皆で広く薄く負担していくしかない」と話す。
「従来、人口の少ない地方で行われていたように、これからは都市部でも自治体や国がバス事業者に補助金を出すなど、公的支援は必要になるでしょう。また、利用者も運賃の値上げを甘受する必要があると思います」
実際すでに、バス事業者が路線バスの運賃を値上げする動きが相次いでいる。
「とはいえ運賃が倍になるようなことはないと思いますし、避けたい。となれば、たとえば東京など都市部で採用している均一運賃、まずはこれを見直すことは可能では。運賃を均一にしてきたのは、距離別にすることで支払いが煩雑になり、大勢の乗客をさばききれなくなるためです。しかしいまや、多くの人がICカードで運賃を払っていますから、距離別運賃の導入はさほど難しいことではないはずです」
さまざまな問題同様、私たちが身を切る覚悟が、路線バスという“足”の確保にも必要なようだ。