「配偶者控除に関する議論が混迷を極めています。近年、パートで働く女性たちが年収を103万円以下に抑えるために労働時間を調整することが注目され、配偶者控除は女性の働く意欲をそぐと問題視されました。そこで『女性が輝く社会』を目指す安倍内閣は、女性の活躍を後押しするために見直し議論を行うと説明しています」
こう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。配偶者控除とは、おもに妻の年収が103万円以下のときに、夫が受ける控除。夫の年収が500万円で妻が103万円以下の場合、夫の税金が年約7万円安くなる。
「今、『103万円の壁』が議論の的ですが、実際は妻の年収が103万円を超えても141万円までは配偶者特別控除があります。夫の控除額は段階的に減っていきますが、妻が103万円を超えて働き、妻自身の税金を払って夫の控除が減っても、103万円を超える前より手取りが減るという逆転現象は起きません。逆転現象が起きるのは『130万円の壁』と呼ばれる社会保険の加入です」
妻の年収が130万円を超えると社会保険は夫の扶養から外されるため、年約18万円の保険料が必要となる。たとえ140万円稼いでも保険料を払うと、前より手取りが減るため、働き損と感じる人は多い。
「さらに今年10月から、従業員が501人以上の企業に勤めるなどの条件を満たす方は、年収106万円以上での社会保険加入が義務化されました。これは厚生労働省の社会保険の支え手を増やしたい意向が反映された結果です。ですが、年収106万円前後の主婦の66.1%が『夫の扶養に残る』とのアンケート結果があります(’16年6月・求人情報サービスan)」
これは女性にもっと働いてほしい政府の目標とは逆行する結果と言わざるを得ない。
「本当に女性の活躍を後押しするなら、税制改革より働くための環境整備が先決です。待機児童の減少には保育士の確保・待遇改善が急務ですが、来年度の給与アップは2%。改善できるとは思えません」
介護でも、国は介護度が低い人へのサービス見直しを進めている。
「車いすなどの福祉用品のレンタルを介護保険から外し、全額自己負担にすることも検討中です。費用がかさめば介護の手が必要になり、働く意欲があっても働けない方が増えるでしょう。『女性が輝く社会』という大義名分に隠れた増税や場当たり的な改革ではなく、誰もが安心して働けるような改革を期待したいものです」