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メールの返信がない、他人からミスを指摘される、といった些細なことを気にして、いつもクヨクヨ、ビクビク、イライラしている。ストレスを感じて過食するなど、やめなければいけないと分かっている悪習慣がやめられない――。

 

こうしたデメリットの多い考え方や悪習慣をどう変えていけば良いか、科学的な根拠に基づいて教えてくれるのが「認知行動療法」です。

 

その基礎となっている重要な考え方に「オペラント条件付け」があります。ポイントは「行動の後に原因がある」という考え方です。

 

日常生活に当てはめて考えてみましょう。たとえば、私たちは通常「のどが渇いたから、お茶を飲む」というふうに考えています。

 

しかし、オペラント条件付けの考え方に則して言えば、これは逆です。「お茶を飲んだことにより、のどの渇きを潤すことができた。だから、またのどが渇いたときにはお茶を飲むという行動を取る」と考えます。

 

人がある行動を繰り返すのは、その行動によって、何らかのメリットを得られることを学習したから、というのが、オペラント条件付けの基本的な考え方なのです。

 

子どもの行動を例にして考えてみましょう。

スーパーへ買い物に出かけたとき、次のような場面を目にすることがないでしょうか。

 

母親と幼い子どもがカートを押しながら、お菓子コーナーの前を通りかかったとき、子どもが「お母さん、これ買って」とねだります。

 

しかし、母親は「ダメよ、もう今日は食べたじゃない」と言って、子どもの手からお菓子を取り上げて、棚に戻しました。すると、子どもは泣きわめいて「買って、買って」と駄々をこねはじめる……。

 

自分が母親になったつもりで想像してみてください。こういう場面で、皆さんならどう対応されるでしょうか?

 

泣きわめく子どもの声が店内に響き、他のお客さんたちの注目が集まります。その状態から逃れるために、「仕方ないわね。今日だけよ。スーパーでは静かにしていなさいね」などと言って、渋々お菓子を買い与えてしまうこともあるのではないでしょうか。

 

それで、子どもは大人しく泣き止み、その場をしのぐことができるでしょうし、スーパーでは静かにしているべきことも言い聞かせたのだから、悪くはない対応のように思われるかも知れません。

 

しかし、オペラント条件付けの考え方に基づいて言えば、このとき、母親は次のような仕組みを子どもに学習させてしまったことになります。

 

欲しいお菓子があるのに買ってもらえないとき(先行刺激)

駄々をこねたら(特定の行動)

買ってもらうことができた(報酬)

また欲しいお菓子を買ってもらえないときには、駄々をこねるという行動を取ろう。

 

もちろん、幼い子どもがそんなふうに理屈で考えているわけではありません。もっと無意識的に、特定の環境と行動、その結果得られる報酬の関係を体で覚えてしまう感じです。

 

では、一度成立してしまったオペラント条件付けを解除するには、どうすれば良いでしょうか。私がおすすめしたいのは「お菓子を手に入れる別の仕組みを提示する」という方法です。たとえば、次のように伝えてみるのはどうでしょうか。

 

「今日はお菓子を買いに来たんじゃないからね。でも、今『まあ、いいか』と我慢して、ママと一緒に野菜を買ってくれたら、明後日、お菓子を買ってあげるよ。どうする?」

 

先行刺激と報酬を結びつける(母親にとっても、子どもにとっても望ましい)別の道具を与えるのです。

 

もちろん、母親が提示した仕組みに従って、子どもが「まあ、いいか」と我慢してくれたときには、後日、約束通りにお菓子を買ってあげます。

 

一方で、我慢せず、駄々をこねはじめたときには、その場でも後日でもお菓子は買ってあげません。泣こうがわめこうが、ダメなものはダメ。その行動では絶対に報酬は手に入らない、ということを経験によって学習させていく必要があるのです。

 

そこで中途半端に買い与えてしまったり、後日、母親が「買ってあげる」という約束を守らなかったりすると、不適切なオペラント条件付けの解除と望ましい条件付けの学習は進まなくなります。

 

母親は「この場面で子どもにどう行動してほしいのか」「どんな行動を学ばせることが子どもの将来のためになるのか」をしっかりと考え、メリハリのついた対応をすることが大切です。

 

 

以上、中島美鈴氏の新刊『悩み・不安・怒りを小さくするレッスン~「認知行動療法」入門』(光文社新書)より引用しました。こうした考え方を自分自身に行うことで、クヨクヨやイライラを小さくすることができるのです。

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