(写真提供:良心石材)
「9年ほど前、慕っていた伯父が亡くなりました。私は悩みができるたびに墓参りをして、心のなかで伯父に問いかけていた。そんなとき、『本当に伯父さんが声をかけてくれたらいいのに……』と思ったのが、この『スマ墓(ボ)』開発を思い立ったきっかけです」
こう話すのは、父が営む石材店から独立し、’15年に良心石材(千葉県)を立ち上げた香取良幸さん(36)。厚生労働省によると、現在の日本の死亡数は年間130万人を超え、’30年には160万人を突破すると推計されている。それに伴う葬儀業界の人手不足や墓不足で、マンション型の自動搬送式の納骨堂なども。
そんな合理化が進むなか、ITツールを使った“ハイテク墓”が登場。「スマ墓」とは、’17年8月に販売開始した良心石材の自社製アプリのこと。
「AR(カメラで映し出す現実の風景に、文字や画像などのデジタル情報を重ね合わせて表示する手法)を利用しています。ありし日の故人の動画などを登録することで、お墓や故人の思い出の場所などを訪れたときにスマホを掲げれば、まるでそこに故人が生きているかのように、話しかけてくれるアプリです。現在までに2,000人ほどの利用者がいらっしゃいます」
将来、自分が死んだ後の家族のために、元気なうちに自ら、メッセージを撮影しに来る高齢の女性や、亡くなった親の生前の動画をアプリに登録する人など、多様なリクエストがあるという。
「スマホの操作が苦手な方には、代行もしています」
そう言って、香取さんが誰もいない街頭にスマホを掲げると、画面内の風景に笑顔で話しかけてくるモデル女性の姿が重なってあらわれた。
「料金体系は、提携寺院・霊園でのお骨の預かり込みで、1年契約で6,000円、15年間一括の場合、生前契約なら8万4,000円、遺族申し込みなら9万円とリーズナブルになっています」(香取さん)
現在、東京都で新しく墓を購入する場合、土地代と墓石代込みで、平均で約150万~300万円ほどかかるといわれている。お墓を作らずに、樹木葬や海洋散骨などを選択する人が増えている。
「立ち上げ当初は、『金もうけ』とか、やはり『不謹慎』などと言われました。しかし、墓石という目印がなくても、映像に映し出される故人に向かって語りかけることができます。また、墓が遠隔地にあってなかなかお参りできない方は、ゆかりの場所を登録することで、そこで故人をしのぶことができる。『スマ墓』にはそんな役割を期待しています」(香取さん)