「不況も長引き、老後の生活への不安も募るなか、テレビや雑誌では、さまざまな節約特集を組んでいます。いっぽうで節約に熱中するあまり、人間関係まで破綻させてしまう“節約強迫症”ともいうべきケースも急増しているのです」
こう語るのは、離婚カウンセラーの岡野あつこさん。節約術に関する本が次々に発売されている現在。しかし、使わないことにこだわるあまり、幸せを壊すケースも急増しているという。そんな“節約強迫症”とはいったいどんなものなのか?
「節約に協力的ではなく、“無駄遣いばかりする”夫へのイライラが募り、口論が増えていました。そのうち、手当たり次第に物で殴ったりするように……」
そう言って肩を落とすのは、東京都在住の村上美沙さん(37・仮名、以下同)。実は村上さんは、IT企業に勤める夫(38)と、離婚したばかり。10年前に結婚し、専業主婦になった彼女は、自称「堅実な妻」だった。
「夫の給料は、年収で1,000万円を超えていましたから世間の平均よりはかなり高かったと思います。でも浮沈の激しい業界ですし、持ち家も欲しかったので、貯金に励むことにしたんです」
村上さんの家計の節約ぶりは徹底していた。外食はいっさいせず、いつもスーパーで見切り品を買ってきて料理をする。買う服も安物で、携帯も持たないため知人への連絡も固定電話やパソコンのメールを利用……。おかげで念願の一戸建て住宅の購入はかなったものの、次第に夫との間には隙間風が吹くようになっていた。
「『私だっていろいろ我慢しているんだから』と、夫の小遣いは1万円に。夫は『そんなに節約しなくても』と、不満顔でしたが、彼だけではなく、私もストレスがたまっていたのかもしれません。彼のお金の使い方を見ていると、なんだかイライラして、文句ばかり言うようになったのです。ついには夫に暴力をふるうようになって、さすがに自分でもおかしいと思い、心療内科にかかることにしました。すると、医師から『強迫性障害の一種』と、診断されたのです」
前出の岡野さんは、「“家族のために”と始めたはずの節約が、いつのまにか節約自体が目的となり、自分や家族を不幸にすることもあるのです」と話す。実際に“強迫性障害”と診断された村上さんは、離婚裁判の結果、慰謝料まで払うことになったという。
精神科医の高木希奈さんは、“節約強迫症”について次のように語る。
「強迫性障害になると、常に不安や恐怖にとらわれ、それを打ち消すために、無意味な行動を繰り返してしまい、日常生活にも支障をきたします。たとえば、最初はふつうに節約していただけなのに、次第にお金を使うことに不安を感じるようになります。さらにストレスがたまっていくなかで、家族など周囲にも節約を強要するようになっていくのです。頭では“ときどきなら無駄に使ってもいいのでは”と考えていても、不安がよぎり、節約をやめられないようになるわけです。真面目できちょうめん、完璧主義という人が強迫性障害になりやすいですね。人間関係が限られているせいもあるのか、特に20〜50代の主婦の方の患者さんも多いです」