「排便時にお尻を拭くと、トイレットペーパーを通過して、便の大腸菌は手に付きます。大腸菌はとても小さいので、たとえトイレットペーパーを30枚重ねていても付きますね。多くは無害ですが、中にはO-157のような病原性の菌がまざっていることも。これからの季節は、トイレ掃除を徹底しましょう」
そう語るのは、「うんち博士」の異名をとる、理化学研究所の辨野義己先生。暑くなり、細菌が元気に活動し始めるこれからの季節は手に付きまくった大腸菌がコワい!そこで今回、辨野先生と「日本うんこ学会」会長で医師の石井洋介先生の「2大便賢人」に話を聞いた。
「大腸菌のほとんどは『常在性』といって、そこにすんでいるだけの無毒の菌なのです。そもそも大腸菌自体の菌数が少なく、腸内細菌中のわずか0.1%程度。ただし、例外として『病原性大腸菌』と呼ばれる毒性の高い菌がある。代表的なものがO-157です」(辨野先生)
排便後にお尻を拭くと、トイレットペーパーを通過して、便の大腸菌は手に付くものの、病原性のもの以外はむやみに怖がる必要はないという。しかし、ほとんどが無害とはいえ、大便時の細菌付着問題をスルーしていいわけではない。
「一生のうちに経験しない女性はいない」といわれる急性膀胱炎。排尿を我慢しすぎたり、免疫力が低下すると発症しやすいといわれているが、実は主な原因のひとつが尿道からの細菌感染。その感染の80%は大腸菌群が原因なのだ。腸に常在している大腸菌のほとんどは無害なはずなのに、これはいったいなぜなのか?
「確かに、膀胱炎や尿道炎の原因が大腸菌というケースはよくあります。尿道や膀胱はもともと、比較的免疫力が低い場所。しかも、女性は男性より肛門から膀胱までの尿道の距離が短いため、排便時に大腸菌を含めたさまざまな細菌が尿道を通って膀胱へ感染し、炎症を起こす危険性は十分に考えられるのです」(石井先生)
また、私たちの手には排便後、病原性細菌が付着している可能性もあるそう。病原性細菌はたとえ便からは微量にしか排出されなくても、あるエサで爆発的に増殖するという。そのエサが、なんと、尿!
「尿自体にはさほど細菌は含まれていません。しかし、細菌にとって、尿の成分は栄養のカタマリなのです。男性の場合、まだおしっこは立ってする人も多いでしょう。すると尿成分は、トイレ内のいたる所に飛び散ってしまいます。通常、病原菌はある程度高い菌数でないと悪さはできません。ところが手に病原性細菌が付いたままトイレの壁やドアなどを触ったとき、そこに付着している尿成分をエサにして、菌はどんどん増殖してしまいます。さらにほかの菌を呼び込む可能性も考えられますよ」(辨野先生)
つまり、飛び散り尿を放置すると、トイレは病原性細菌の温床となる。私たち自身も手をそのままにしていれば、病原菌をばらまきながら動き回り、家庭や職場のトイレをバイオテロ状態に……!?また、子どもやお年寄りなど抵抗力の弱い家族がいる場合は、通常の大腸菌であっても感染によって体調を崩しかねないという。
もし夫や息子などの家庭内の男性陣が“立ってする派”なら「アンタの立ちションで私が膀胱炎になったらどうしてくれんの!!」とその罪深さを説き、即刻やめさせる、またはトイレ清掃およびアルコール消毒係に任命するべきだろう。
気温が上がり、「細菌のハイシーズン」も間近。これからは、排便をしたら腸内細菌が100%手に付いているものと潔く諦め、「手洗い・トイレ掃除・アルコール消毒」で、家庭内細菌パンデミックを予防しよう!