“築地”が移転をめぐる騒動で揺れるなか、地域の市場がひそかに人気を集めているという。地元の絶品グルメに、趣向を凝らしたイベントの数々……。食のテーマパークのように「ローカル市場」は変貌を遂げている。なかでも、市場好きの間で人気急上昇なのが、名古屋柳橋中央市場。その魅力を、幅広いジャンルでルポやエッセイを執筆している文筆家の“ローカル市場の達人”加藤ジャンプ氏が紹介−−。
なにしろ市場はおもしろいのである。仕事柄全国へ取材へ行くのだが、チャンスを見つけては現地の市場をうろついてきた。かつては、ターレと呼ばれる運搬車両に乗ったおじさんに、
「どけコラ、ぼけぼけすんな」
と怒号を浴びせられたこともあった。しかし、コワい思いをするとムクムクやる気が出る性分なのか、しつこく全国の市場を回っているうち、最近ひしひしと感じることがある。
市場、優しくなっている。
昔の市場が、「根はいい奴だけど素直になれない番長」なら、今は「ユーモアのセンス抜群でイケてる学級委員」みたいになっているのである。それを実証すべく、最近、市場愛好家たちの間でぐいぐい番付を上げている、名古屋の柳橋中央市場へ向かった。
柳橋中央市場はまずその立地に驚く。高層ビルだらけの名古屋駅から歩いて約5分のところにあるのだ。
「東海地方は、海産物は伊勢湾、肉は松阪、果物も野菜も豊富な食の宝庫で、それらが名古屋に集まります。そんなおいしいものが集まる市場を、もっと一般の方に利用してもらいたいんです」
と熱く語るのは、この市場の中核をなすマルナカ食品センター(中央市場総合食品センター)の安藤東元社長である。その顔に見覚えがあると思ったら、このマルナカ食品センターの駐車場ビルに、安藤社長の巨大な似顔絵看板があった。その看板が大変なことを伝えていた。駐車料金なのだが、男性は2時間500円(平日のみ、休日は15分100円)のところ、女性は毎日3時間まで500円の定額制なのである。
「近隣の施設と提携した割引サービスもありますし、ベビーカーの方はスタッフがすぐにヘルプするようにしています。主婦の方の、家事の助けになるような市場になりたいんです」(安藤社長)
市場はいい物がお得に買えるのが定石だが、それだけについついたくさん買ってしまいがちだ。だから車で来場したくなるが、うっかりすると買い物で得した分を全部駐車場代に持っていかれる。某築地界隈など、近隣のパーキング料を考えると懐ろにすきま風が吹き抜ける。
マルナカの攻勢はもちろんこれにとどまらない。
「例えば、市場で買ったものを、そのままバーベキューできるイベントや、冬はフグ鍋ガーデン、夏はビアガーデンをやっていますが、いずれも市場の素材をふんだんに使っていて、味も最高です」
と安藤社長が語るのを聞いているだけで、おなかが鳴ってくる。早速フグのイベントに参加しようと勇んだが、「来月からです」(安藤社長)とのことだった。
市場は、最もリアルな「食のテーマパーク」だ。見過ごしがちな「旬」、ほっこりする「人情」や、もちろん豊かな「味」もすべてがそろっている。ふだんの買い物にちょっと飽きたら、近くの市場へ行ってみようではないか。おもしろくてやみつきになるはずだ。