「ステーキは大好きだけど、自宅の調理器具じゃなかなかおいしく焼けないか……」
そう思い込んでいる主婦は多いが、「いいえ、一般家庭のキッチンでも、焼き方のコツさえつかめば、プロさながらの仕上がりにすることは可能です」と話すのは、レストラン「グルマンディーズ」(東京都港区)のオーナーシェフ、長谷川北斗さんだ。
パリを中心に星付きレストランで研さんを積んできた長谷川シェフは、400年以上の歴史を持つ、かの「トゥールダルジャン」のスペシャリテ、鴨料理を任されていたことも。精肉店で働き、肉の勉強をするなど8年のフランス滞在で知識と技をフルに吸収。帰国後も東京で10年ほど経験を積み、’15年10月に独立した。
13席ほどのこぢんまりとした店は、上質の大人の隠れ家ビストロといった雰囲気。料理は、あえてフレンチという枠を設けていない。
「今までの経験の中で、自分がおいしいと思ったものを出すほうが喜ばれるのではないかと。しかも厨房が小さいので、肉に特化した店にしました」(長谷川さん・以下同)
評判のステーキは、厚さ約6センチ! 外はカリッと香ばしく中はしっとり軟らか。ジューシーな肉汁とともにうま味を存分に味わうことができる。
「肉の火入れは料理人の考え方によってさまざま。私も研究を重ねてきて、塊肉でもオーブンを使わず、フライパンで十分においしく焼けるという結果にたどり着きました」
このシンプルを極めた絶品ステーキは、都内有名店の三つ星シェフをはじめプロの料理人たちが「夜遅くに“こんなにうまい肉”が食べられる店はほかにない!」と足しげく通うほど評判になっている。
さて、いよいよ「家焼き絶品ステーキ」のコツを教えてもらうべく厨房へ。「このフライパンで焼きます」と長谷川さんが出してきたのは、真っ黒に使い込まれたフライパン。ガスコンロも、一般的な家庭と変わらない。ここから“極上肉料理”が生み出されているとは驚きだ。
まずは肉の準備。ここでのコツは「直前まで冷蔵庫に入れておく」ということ。脂が緩んでいる状態で焼くと脂分が溶け出しやすく、ジューシーに仕上がらないのだ。
味付けは、脂が多い肉は塩を多めに。外国産の肉はうま味や甘味が少ないものが多いので、こしょうを多めに振るとおいしく感じるそうだ。ちなみにこしょうは、粗びきのほうが、かんだときの風味がよく、たっぷり振ってもさほど辛味がたたない。
フライパンの大きさも大切。小さい肉を大きなフライパンで焼くと焼きすぎに。逆に大きな肉を小さなフライパンで焼くと熱量が足りなかったり、油がはねて危なかったり。
「大きさの目安は、お皿の上にステーキを盛り付けたときと同じ感覚で、周りに少し余裕があるものを」
次に最も重要な火加減。
「最初から最後まで強火で焼くこと。肉をあまり動かさないこと。これで、間違いなくおいしく焼き上げることができます」
肉を動かすと加熱温度が下がってしまうのでNG。そこで強火でフライパンを熱々に熱し、表面からうっすら煙が上がるくらいになったら油をたっぷり注いで肉をのせる。
「“揚げ焼き”といったイメージで焼いてください」
音に勢いがあり、「焦げない?」「パサパサにならない?」などと心配になるが、「負のイメージは持たず、思い切りが大切。でも、煙が出すぎる、油はねが異常など、危機感があれば火力調整を」とのこと。
“片面焼き”も大きなポイント。最初に2〜3分しっかり焼き、裏返したら、焼き色をつける程度、30秒〜1分弱を目安に焼く。時間差焼きで焼きすぎを防ぐのだ。
そしてフライパンから出し、余熱で中まで火を通して仕上げる。
「このときキッチンペーパーの上にのせたり、アルミホイルに包んだりしないでください。せっかくカリッと焼いた表面が蒸気でふやけてしまいます。しっかり焼いたほうの面を上にして、コンロ周りの暖かいところで休ませてください」
肉の中心まで熱が伝わり、ミディアムレアの状態になる。厚さ1.5センチ前後の肉なら、これで十分だが、フィレなど厚めの肉を焼いたときには、果物ナイフなどを刺してみて、刃が温かくなっていれば大丈夫。冷たかったりぬるい感じがした場合は、もう少し火入れを。
できあがりは、1枚600円前後(約300グラム)のオージービーフも、赤身の力強い味が出ていて、国産牛にも負けないおいしさだ。
「誰でも、どんなフライパンでも、成功率はかなり高いと思います。ただ、火加減、焼き加減はコンロのクセ、食べる人の好みによって違いがあるので、何度か試して調整してください」
目からウロコの長谷川シェフ考案「絶品ステーキの焼き方」を、ぜひお試しあれ。