熊本県玉名市で農業を営む高木洋さん(54)、美津子さん(59)夫婦が、飼い猫「チャアチャ」の首輪に紙切れが結び付けられているのに気付いたのは、’13年4月のこと。何かと思って紙を開いてみると、そこにはこんな内容が。
「チャチャは毎日午前10時から11時30分頃まで遊んでいきます 楽しいですよ ねころんだりすりよったりしますよ ニャーアと言ってかけ寄ってきますよ」(原文ママ)
達筆なその文字に、洋さんは見覚えがあった。「惠子先生の文字に間違いない」。洋さんの中学時代の恩師、高木惠子先生(75)のこと。38年の教師生活を経て、現在は105歳になる母の波惠さんの世話をしながら暮らしている。惠子さんの家は、洋さん夫妻の家から100mほどのところにある。
翌日、惠子さんが洋さん宅を訪ね、こう聞いた。「昨日、チャアチャが首に何か付けて帰りゃせんかった?」「ああ、やっぱり惠子先生じゃったか!」「かわいくて、賢いネコやねえ。これからもチャアチャがきたら、手紙を書いていい?」「逆に迷惑かけとらんですか?もちろん、こんなお便りなら、楽しみにしとるけん」
こうして、前代未聞の「伝書ネコ」による家族の交流が始まった。惠子さんが、初めてチャアチャの首輪に手紙を結び付けたときのことを振り返る。
「チャアチャがくるようになったのは、’13年3月ごろから。ばあちゃん(波惠さん)の寝ている布団にもぐりこんだり、なでるとグルグルと声を出したりするので、ばあちゃんがすごく喜んでねえ。あまりにかわいくておりこうさんなので、その様子を洋さん夫妻に知らせてあげようと思ったんよ(笑)」
そして、この伝書ネコによるコミュニケーションは、思わぬ“奇跡”を引き起こしたのだ。ここ数年、波惠さんは病気がちになり、何度か救急車で運ばれるようなこともあった。’13年1月ころには肺炎で約1カ月入院し、退院後は家で寝たきりになってしまった。手も上がらず、身動きすることもままならない状態だったという。チャアチャが訪ねてくるようになったのは、そんなとき。
「すると、不思議なことに、ばあちゃんはみるみる元気になっていったんですよ。ばあちゃんのそばにやってきては、なでてもらって帰っていくのですが、まるで介護士さんみたいなんです。だから『ネコ介護士』ってあだ名をつけたくらい(笑)」(惠子さん)
元旦には「新年あけましておめでとう」という「年賀状」を運んだチャアチャ。お正月には惠子さんから金色のひもを鎖編みした首輪をプレゼントされた。「ありがとう。これからも高齢のばあちゃんを元気づけてね」と、そんな感謝と願いが首輪には込められている。