「へそくりと聞くと、家計をやりくりして、コツコツお金を貯めることを想像しますが、60代以上のシニアの場合、サラリーマンの平均年収を上回る金額を貯めている人もいることがわかりました」(ハルメク生きかた上手研究所所長の梅津順江さん)
シニア女性向け雑誌『ハルメク』では「夫婦関係」の特集を組むため、今年1月、同研究所が婚姻関係のある60〜79歳の男女437人にアンケートを実施した。
夫婦に関する質問の一環で、「自分だけのへそくりはありますか」との問いかけに対して、まずは「ある・なし」で回答してもらい、「ある」という人には金額を自由に書いてもらったという。その結果、へそくりをしている人は53.5%、驚くのはその金額だ。
「へそくりの平均額は436万円でしたが、男女別の平均を比べてみますと、男性は330万円で、女性は男性よりも184万円多い514万円もあったのです」(梅津さん・以下同)
へそくりといえば、日常の節約や500円玉貯金などで貯めるイメージがある。それと比較すると、かなり大きな金額だ。
「まとまった金額のへそくりを持っている人には、まず独身時代や共働きのころに貯めていた自分名義の預金に手を付けずにとってある人がいました。また、夫の給与振込み口座を管理するにあたって、やりくりで捻出した数万円をコツコツ貯めたお金がかなりの金額になっている人も。さらには実の親の遺産など、まとまって入ってきたお金をそのまま残しておいたというケースもあるようです。へそくりをする目的について後日、個別にインタビューをしてみたところ、女性からは長生きリスクに対する備えや年金生活の不安、夫が財布のひもをにぎっていて、信用できないから自分で持っていたい、と不満、不安の声が出てきました」
婚姻歴は30年程度。夫はすでに定年退職をしていて、退職金などまとまった額を手にしていることも多いが、最近のシニアは大金を手にしても派手にお金を使うことは少なくなったという。
「人生70年といわれていた時代は、リタイアしたあと、15年ぐらいしかないから、今のうちに思い出を作っておきたいと、豪華客船で世界一周する人もいましたが、今はリタイアした後が長い。60歳で定年してもあと40年ぐらいは生きなければならないので、旅行に行くのも国内で1泊2日とミニマムになりました」
ところが、シニアがお金を貯める理由は、もう一つあるという。ウェブアンケートによると、「夫婦関係に満足している」という“仲よし夫婦”の平均へそくり額410万円に対して、「夫婦関係に満足していない」と答えた“不仲夫婦”は648万円。夫婦関係のよし悪しによって格差が生じて、仲が悪いとへそくり額はグンと増えている。どういうことだろう?
「あくまでも参考値なのですが、不仲夫婦の金額をそれぞれ見てみますと、男性が“仲よし夫婦”の平均をやや上回る472万円だったのに対して、女性は2倍以上となる898万円という結果が出ました。連れ添って30年はたっているとはいえ、離婚など“もしものとき”に備えていたのです」
財産分与とは別に、1,000万円以上のへそくりを持っていれば、別れた後、ひとりになっても生活できると計画しているのかもしれないという。そのせいか、へそくりの隠し場所も、いわゆる「タンス預金」ではなく自分名義の銀行口座に堂々と預けている女性たちが多い。
「そもそも“へそくり”とは、配偶者には内緒でお金を貯めこむことをいいますが、仲よし夫婦は額までは教えていなくても、相手が貯めていることは知っていたというケースもありました。ところが、不仲夫婦はすでにすれ違いの生活で、お互い干渉しない様子が伝わってきました。男女共に、離婚したいという方は『ひとりになるとかわいそうだから別れないであげている』と話していたのが印象的でしたね」
子どもが独立するまでは相手の嫌なところも目につかなかったが、いざ夫婦2人きりになると会話が成り立たないという人もいる。「金の切れ目は縁の切れ目」といったものだが、今や金を持っているほうが縁が切れるのか――。