「2年ぐらいだったらなんとか私のお金で援助ができると思い、母親を有料老人ホームに入れたまではよかったのですが、入居から3年以上が経過。もう出せるお金がありません!」(50代男性)
「遠方に住む親が突然倒れて……。親のお金がどこにあるのか、全然見当がつかず、医療費は私が負担しています」(40代主婦)
親の介護問題は、突然やって来る――。超高齢社会といわれるなか、冒頭のような悲鳴を上げる人たちは多い。一般的に7~8年といわれる介護期間だが、実際には10年以上続くことも珍しくなく、長生きしてくれるぶん、介護費用の負担額は増えていくのだ。
「“人生100年時代”で介護期間も長引くことが予想されるなか、親の介護のために自分のお金を使っている場合ではありません。親も自分も100歳まで生きると考えた場合、10年、20年も負担するのは、自分の生活をどんどん苦しくするだけです。介護は“親のため”だから“親のお金”を使う。そういう考えで向き合うべきだと思います」
こう語るのは、老親介護の現場を多く取材する、介護・暮らしのジャーナリストの太田差惠子さん。長引く親の介護で子どもが“破綻”しないためにも、親が元気なうちに、やっておくべき「準備」があるという。
■親の財産状況を把握する
太田さんは、親のお金を介護費用に充てるためには、まず親の懐ろ事情を知ることが大事だと話す。
「介護費用は“いくらかかるか”をむやみに考えるのではなく、“いくらかけられるか”。その額を把握してから、介護内容を逆算していくもの。自分の家庭の経済状況はしっかり把握している人が多いのですが、親がどれだけお金を持っているかという話になると、とたんにわからなくなる人が多くなるのです」
じっさい、親の懐ろ事情がわからないまま介護に突入し、泣く泣く自分でお金を負担し始める人も多いという。
「親の年金額、預貯金、株、不動産、どのような保険に加入しているか。さらに借金の有無などを知っておくことで、どんな介護ができるか見えてきます。また、親の預金通帳やはんこ、保険証書などがどこにしまってあるかも共有しておくべきでしょう」
とはいえ、親が元気なうちにいきなり“いまお金あるの? 通帳はどこ?”とは切り出しづらい。聞き方を間違えると、ケンカになってしまうこともあるだろう。そこで太田さんに、親に懐ろ事情を尋ねる際に使える言い回しを教えてもらった。
【親との信頼関係に自信がある場合】
□ダイレクトに尋ねる
「何かのときに、どんな支援や介護ができるか一緒に考えよう。お金はどれくらいあるの?
□確定申告をきっかけに
「医療費がかかってるから、確定申告をしよう。手伝うよ」
【親との信頼関係に自信がない場合】
□友人の話題を出して
「友人の親御さんが倒れて入院したのよ。保証金がいるからって、親御さんの通帳と印鑑を銀行に持参したんだけどお金が引き出せずに困ったみたいなの。もしものとき、どのお金を使えばいい?」
□民間保険を話の糸口に
「このあいだ、自分の生命保険を見直したの。お母さんはどんな感じ? 余分な支払いをしていないか見直そうよ」
民間保険の見直しを糸口にすると、とくにうまくいきやすいそう。
「『私はこうだったけど、お父さんは(お母さんは)どんなプランに入ってる?』と聞くと、話をしてくれるケースが多いようです」
保険の見直しなどについて対面で話す場合、内容を確認するために、親と書類を見ながら話すことになる。その際、大事な保険証書がどこにしまってあるかも同時に把握できるという。2つのメリットがあるのだ。
「親の懐ろ事情に関するさまざまな情報を引き出すためにも、紹介した4つの会話のパターンをヒントに、ふだんからお金について話し合うことを習慣づけたいですね」