女性に多い膀胱炎は治療が難しい病気ではありませんでした。それが最近、治りにくく症状が悪化するものも。その原因は、薬が効かない細菌にあるというーー。
「膀胱炎は、汗をかいて脱水症になる人が増える夏に多いと思われていますが、実は、冬でも膀胱炎になる人が増加します。この膀胱炎の治療が10年ほど前から難しくなっているのです」
そう語るのは、国立国際医療研究センター泌尿器科の野宮明先生。膀胱炎のほとんどは、膀胱のなかで大腸菌などが繁殖して炎症を起こす細菌性膀胱炎だ。排尿時の痛みや頻尿、残尿感などの症状があり、女性の2人に1人がかかるといわれている。
「女性は、尿道が男性と比べて短いため、細菌が膀胱にたどり着きやすい。さらに、水分摂取量が少なかったり、トイレを我慢したりする人も多いので発症しやすくなるのです。とりわけ冬は空気が乾燥しているのにのどが渇きにくいため水分摂取量が減少。隠れ脱水症の人も多い。さらに冷えで免疫力が低下することで膀胱炎の発症リスクが高くなるのです」(野宮先生)
とくに50代以上になると、女性ホルモンが低下し、尿道口付近の膣粘膜の防御システムが弱体化。感染しやすくなるという。
「膀胱炎は疲労や睡眠不足などにより免疫力が低下することでも発症リスクが高まります。また、膀胱炎を繰り返す中高年の女性は、温水洗浄便座のビデを多用している人も少なくありません。ビデを使って洗浄することで感染を防ぐ膣粘膜を傷つけたり、細菌が付着した洗浄ノズルから感染したりすると考えられます」
さらに気になるのは冒頭で触れた、治療が困難な膀胱炎の存在だ。
「これまでは、症状を引き起こす大腸菌を除菌できる抗生物質を飲むことで、ほとんどの膀胱炎が数日で治っていました。ところが最近、大腸菌のなかに、抗生物質の効かない大腸菌が増えているのです」(野宮先生)
薬物耐性に詳しい、国立国際医療研究センター病院・AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長の具芳明先生が語る。
「膀胱炎の治療で広く使われていたのはキノロン系とセフェム系という抗生物質で、これまで多くの膀胱炎を治してきました。ところが、これらの抗生物質が効かない薬剤耐性の大腸菌がある人が急増。もっとも使われているキノロン系でも、4割が効かなくなっているのです」
膀胱炎の“特効薬”だったキノロン系とセフェム系の抗生物質でも効かない膀胱炎が、わずか7年間で急増しているのだ。薬が効かない大腸菌を持つ人が増えているのはなぜだろうか?
「抗生物質は大腸菌などの細菌を殺す薬ですが、細菌もさまざまな手を使い、生き延びようとします。その結果、抗生物質が効かない耐性菌が増えていきます。とくに抗生物質の効かない大腸菌は、日本だけでなく、世界的にも増加していて大問題になっているのです」
抗生物質の不必要な使用がそれに拍車をかけているという。
「普通の風邪でも抗生物質を飲めば治ると思っている人が少なくありません。そのため安易に処方を希望する患者さんが多いのです。抗生物質は腸内細菌にダメージを与え、耐性菌が生き残って増えていく可能性があります。抗生物質の乱用が耐性を持った大腸菌を増やし、薬が効かない膀胱炎発症の原因になっているのです。抗生物質を投与された家畜の肉からも、薬剤耐性菌が見つかっています。耐性菌に汚染された食物を食べることで、耐性菌が体内に入り込んでいる可能性もあります」(具先生)
薬剤耐性菌が腸にいたとしても腸内環境を整えることで、耐性菌の数を減らすことは可能なので、発酵食品を多めに取るなどの食生活を心がけたい。膀胱炎にならない生活習慣を続けて、おなかの中で薬の効かない大腸菌を育てないようにしよう。
「女性自身」2020年2月11日号 掲載