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口の中にあるのが当たり前だから、改めてその役割について考えることもあまりない唾液。じつはこの液体こそ、現在、そして将来の健康状態を示すバロメーターなのだ!

 

「唾液は私たちの口の中の健康のためにさまざまな働きをしていますが、その成分は心身全体の健康維持にも欠かせない役割を果たしています。人間の体は唾液によって守られていると言っても過言ではありません」

 

唾液の働きについて長年研究を重ねてきた神奈川歯科大学の槻木恵一先生はそう話す。

 

唾液には体を菌から守る抗菌作用のほか、菌を洗い流す自浄作用、胃や腸を助ける消化作用など、さまざまな機能がある。これらの働きが、虫歯だけでなく、かぜやインフルエンザ、さらには動脈硬化、うつ病、そして認知症などの疾患の予防にもつながっているのだという。

 

体を守る働きをする唾液の成分の筆頭株がIgA(免疫グロブリンA)だ。IgAは免疫力をアップしてウイルスの侵入を妨げるだけでなく、腸内環境を整えたり、歯周病菌の侵入を防ぐ機能もある。

 

「近年、歯周病は糖尿病や動脈硬化、リウマチなどさまざまな病気と関係していることがわかってきましたが、アルツハイマー型認知症に影響を与えているとも考えられています。これは、歯周病菌が脳に入り込むことで、認知症の原因となるアミロイドβを増加させてしまうことによるものです」(槻木先生・以下同)

 

唾液の働きは、これ以外の面でも認知症予防と深い関わりがあるという。

 

「脳の老化を防ぐ働きをする唾液中の抗菌物質は主に2つあります。1つはラクトフェリン。これは母乳にも含まれる成分で、ラクトフェリンが脳に届くと、脳内の神経細胞が保護され、抗酸化作用をもたらします。もう1つはBDNFというタンパク質です。BDNFは脳の海馬にも多く存在していて、脳のストレス耐性を強化します。認知症を発症すると、BDNFの量は減少してしまいます」

 

ここまでみてきたように、健康な体、そして脳の維持には、唾液の働きが欠かせない。槻木先生は唾液の“質と量”の重要性を強調する。

 

「“質のよい”“十分な量”の唾液を分泌させる力を私は“唾液力”と呼んでいます。唾液力が高ければ、自浄作用、免疫力アップなどさまざまな働きが促され、全身の健康につながるのです」

 

唾液力をアップするためには、まず唾液の分泌を促すこと。最も即効性があるのは3つの「唾液腺」のマッサージだ。

 

【1】耳下腺マッサージ

 

耳の下から少し前の位置に人さし指、中指、薬指を当て、そこを中心に円を描くように指を回す。強く押さず、ゆっくりと回すのがポイント。10回繰り返す。

 

【2】顎下腺マッサージ

 

両手で握りこぶしをつくり、左右の顎の下にはめ込むように当てる。首の方から顎の先に向かってこぶしを動かす。10回繰り返す。

 

【3】舌下腺マッサージ

 

親指を立てて、顎の下から舌の部分をやさしく押す。強く押すと痛みを伴うことがあるので注意。10回繰り返す。

 

「唾液の分泌に関わる耳下腺、顎下腺、舌下腺をマッサージします。また、よく噛むことや舌の体操も口のまわりや頬の筋肉を鍛えることで唾液が出やすくなります」

 

同時に、リラックスできる時間を意識的につくることも大切だ。

 

「緊張状態が続くと、交感神経が優位になり、唾液の分泌量が減ってしまいます。緊張すると、口の中がカラカラになりますよね。逆に、ゆったりと入浴するなど、落ち着いたひとときは副交感神経を優位にして、唾液の分泌を促します」

 

軽く汗をかくような運動やストレッチはリラックス作用があるだけでなく、脳への刺激にもなる。また、体を動かすことで脳内BDNFが増えるという。

 

「唾液腺は活性酸素に弱いため、緑黄色野菜など、抗酸化作用のある食べ物を積極的に取ると唾液力アップにつながります。ほかに、毎食後の歯磨きのほか、緑茶でうがいをすることも口の中の抗菌作用を持続させるのに効果的です。いずれの対策も、一時的でなく続けることが何より大事です」

 

継続的な“唾液力トレーニング”で、健康長寿をかなえよう!

 

「女性自身」2020年2月18日号 掲載

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