平均寿命は女性がおよそ87歳、男性がおよそ81歳。長い老後はそのまま介護の長さに直結する。“ホントのところ”いくらくらい費用がかかるのか。実例をもとに学ぼう!
「老後の介護資金を考えるとき、施設のパンフレットに記載される入居一時金や月額利用料ばかりに目を奪われる人が多いです。しかし貯蓄、年金収入、自宅の売却、利用者の健康状態、家族のサポートなど、それぞれの家庭ごとに異なる事情も考慮して、計画を立てなければなりません」
こう語るのは、介護施設コンサルタント業務を請け負うスターパートナーズ代表の齋藤直路さんだ。
「長寿社会の現在、あなたの親やあなた自身の介護を考えるとき、90歳や100歳まで生きることを前提にした計画を立てることが必要になってきます。長生きすることはうれしいですが、結果、資金的に追い詰められるリスクも……。介護施設に入居した人が、資金が尽きて、ふたたび家庭に戻るという例も最近は聞くようになりました」
人生には想定外のことが起こるもの。だからこそ、さまざまなケースを知る必要がある。そこで、介護経験のある家庭の聞き取り取材をもとに、具体例を作り、その総費用を算出した。介護費用はすべて自己負担が1割の場合の金額だ。
「介護は本人ばかりでなく、家族全体の問題です。これを機に親子や夫婦で話し合ってほしいですね」
【ケース1】母が「介護付き有料老人ホーム」に入居した場合
埼玉県に住むAさん。数年前、父を亡くしてから、母がふさぎがちだと心配していた。
「料理好きだったのに、“1人分をわざわざ作るのも面倒”と、スーパーでお弁当を買うように。外出する機会もめっきり減って、生活のハリがなくなり、一気に老け込んでしまった」
そんな状況が3年ほど続いたが、幸いにして、Aさんが実家の近くに住んでいたため、母のサポートをすることができた。
ところが母が82歳のときに、Aさんは夫の転勤で地方都市に引っ越すことに。認知症の症状が始まり、持病の糖尿病の薬を飲み忘れてしまう日も増えてきた母を、一人暮らしさせるのは無理だ。
「ケアマネさんと相談した結果、実家近くの介護付き有料老人ホームへ入所することにしました。一時金は、貯蓄や実家の売却費用1,200万円などを充てました」
施設生活では、母は気の合う仲間ができて、楽しく過ごしている。いちご狩りなど、月に1回の遠足も楽しみにしていたが、認知症と糖尿病が進行し、86歳で要介護2に引き上げられ、88歳のときに施設で亡くなったのだった。
【介護でかかった費用】
・入居金:730万円
■82~85歳(要介護1)
・介護費用:1万8,200円
・施設の月額利用料(管理費・食費込み):16万4,000円
・レクリエーション費:3,000円
・合計(月額):18万5,200円
■86~88歳(要介護2)
・介護費用:2万300円
・施設の月額利用料(管理費・食費込み):16万4,000円
・合計(月額):18万4,300円
・7年の総費用:2,282万4,400円(1年あたり326万629円)
「長年連れ添った夫、または妻を亡くして、心身ともに衰えるケースは珍しくありません。そんなAさんの母は、介護付きホームに入居してからの7年間で、老後生活に約2,300万円ほどかかりましたが、実家の売却費用や貯蓄のおかげで、持ち出し金は1,100万円ほどで済んだ。貯蓄と毎月支払われる年金で、母の介護費用、生活費全般をまかなうことができました」(齋藤さん)
具体例を紹介したが、齋藤さんはこう注意を促す。
「あくまで概算なので、各ご家庭の事情に照らし合わせてください。さらにこのほかにも、予想外の医療費など“アクシデント”は起こるので、さらに余裕を持った資金計画が必要です」
また“ついのすみか”を決める際、お金ばかりでなく“人”もしっかりと見極めなくてはならないという。
「利用料が安くても、介護レベルが高い施設はあります。その逆の可能性もあります。入居候補先には事前に見学、施設長に面談をし、理念や施設内の日常の様子も見ておきましょう。さらに、スタッフの離職率なども参考にしてください。次々に人が入れ替わる施設は、介護レベルの低い人材も紛れ込むため、要注意です」
絶対に後悔をしないために、ついのすみかは慎重に選びたい。
「女性自身」2020年5月12・19日合併号 掲載