「免疫細胞療法やビタミンC療法といった自由診療での療法、そして健康食品やサプリメントによる民間療法……。これらの療法には、がんを縮小させたり延命効果を示したりする効果はありません。ところが日本では、医師さえも、民間療法や自由診療を“効果抜群”とうたっている人がいるのです。そのような“トンデモ療法”を選択してしまい、適切な治療のタイミングを逃す患者さんが後を絶ちません」
そう語るのは、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之さんだ。抗がん剤治療のパイオニアとして知られる勝俣さんは、“トンデモ療法”を信じたため、治療が手遅れになってしまった患者を多く見てきたという。
「がんの治療法を、インターネットでやみくもに検索することは、そういった被害に遭うリスクを高めることにもなります。とくに日本では、標準治療を否定して、特定の商品を薦めるような怪しいウェブサイトが上位に表示されるケースが多い。私が5種類のがんを検索し、それぞれ上位20のウェブサイトを調べたところ、信頼できるサイトは1割しかありませんでした」(勝俣さん・以下同)
がん治療についての情報はたくさんあるが、効果が期待できる正しい情報とそうでない情報が混在している。これを見分けることができれば、誰も騙されないことはわかりきっているのだが……。
「がんと診断されれば、誰でも大きなショックを受け冷静さを失ってしまいます。ゆえに、まったく治療効果がない“トンデモ療法”に飛びつきやすいのです。“自分は大丈夫だろう”と思い込んでいる、教育レベルや収入が高い人ほどこの傾向が見られます」
そこで、“トンデモ療法”を見分けるポイントを勝俣さんに解説してもらった。
■「免疫力でがんをやっつける」と説明している
「何か特定の食品を食べたり行動したりすると、がんを倒せるほど免疫力が上がるという事実は確認されていません。たしかに免疫細胞は、がんを倒すのに重要な働きをします。しかし、食事療法やサプリメントなどについていくつかの研究はありますが、治療効果を示した結果は存在しません。食事やサプリメントでの免疫効果というのは、がんを倒すほどのものではないということです」
■経験談や少数の治療実績を強調している
「余命2年と宣告されたのに、この治療で5年生きることができた」「私は○○免疫療法で治った」……そのような経験談や実績が大きく載っているがん治療のウェブサイトを見たことがあるだろう。
「経験談や、少数例の治療成績による効果を強調する情報……この信頼度は、医学的に言えば“最低レベル”と言ってよいでしょう。少数例のデータでは、真に治療効果を証明できません。『○○というサプリメントを飲んだら、がんがよくなった』という体験談があったとします。しかし、その真の効果は、そのサプリメントを飲まなかった場合と、飲んだ場合と多数の人数で比べないとわからないのです」
■細胞実験レベルのデータだけでは信用できない
「培養したがん細胞に有効成分をかけたら、がん細胞が死にました!」という文句を信頼する患者は多いようだが、「これだけでは、人間に効果があるかどうかわからない」と勝俣さん。
「細胞・動物実験で効果を示した治療薬が人間での臨床試験で有効性が示され、実用化にいたるのは、3パーセントくらいと言われています。細胞実験のデータで効果があっても、実際の患者さんにがん治療としての効果を示す確率はとても低いのです」
■「予防に効果あり=治療に効果がある」と説明している
「がんの予防効果が証明された○○を、定期的に摂取するだけでがんが寛解したという例も!」と宣伝する商品についても、勝俣さんはこう指摘する。
「がんリスクを下げる『予防』とがんを治す『治療』はまったく別もの。不良少年を生まないように環境を整えることと、不良少年の集まりである“ギャング”を壊滅させることは、全然違いますよね。予防効果があるからといって治療に効果があるとは限りません」
“トンデモ療法”の特徴をしっかりと把握して、がんと闘うための正しい情報を身に付けよう。
「女性自身」2020年7月7日号 掲載