ていねいな暮らしが見直されている今、日本古来の方法でていねいにつくられた「基本の調味料」を取り入れてみませんか? 大量生産とは違う個性で、いつものおうちごはんがぐっと豊かに格上げされますーー。
■岩手県・八木澤商店の「奇跡の醤」
その名に象徴される「奇跡の醤(ひしお)」は、奥深く、うまみが強いこい口しょうゆで、生で食べると、香りと味のよさがいっそう感じられる。特徴的なガラス瓶はその昔、しょうゆの輸出に使用したコンプラ瓶をイメージしたもので、品質の保存性にすぐれ、リユースも可能だ。
ところで、「奇跡の醤」が初めて商品となったのは2014年。9代目の河野通洋さんによると、いくつかの偶然が重なった結果、奇跡的に誕生したのだという。
「しょうゆづくりを始めたのは大正時代。以来、伝統的な製法でつくり続けていましたが、東日本大震災で甚大な被害を受け、創業以来の蔵や、150年も使い込んだ気仙杉の木桶など、そのほとんどが流されてしまいました。もちろん大切な“もろみ”もです。『香ばしい』と評価をいただいていたしょうゆはもうつくれないかもしれない、とあきらめていたとき、震災前に微生物の研究のために預けていた釜石市の水産技術センターから、うちのもろみが奇跡的に見つかったとの連絡をいただいたんです。研究所が探してくださった経緯もまさに偶然で、商品をこの名前にしました。その後、多くの協力を得て製品化されたのは、震災から3年8カ月たってから。やっと『奇跡の醤』の最初の一滴が搾られました」(河野さん・以下同)
「奇跡の醤」は、もろみの中に自生している酵母と乳酸菌のみで発酵を促し、その間いっさい温度調整をすることなく、自然の温度で発酵させる昔ながらの醸造方式をとっている。外気の温度が上がる夏場を2度経過させることで、ゆっくり、じっくりと熟成させ、職人が五感を研ぎ澄ませてもっともよい状態のときに搾る。その結果、塩の角がとれ、ふくよかな味と香りが生まれるのだという。
「そのぶん製造コストはかかりますが、そこは譲れません。成分無調整で搾ったままのしょうゆをいっさい調整・調合せず、火入れと充填をしてお届けしています。食卓しょうゆとしてもぜひ、活用してほしいですね」
新しい生活様式は、「基本の調味料」から始めよう。
「女性自身」2020年7月14日号 掲載