新型コロナウイルスの収束が見えないなか、これまでになく「死」を身近に感じ、「相続」を考えた人もいるのではないだろうか。
相続法は’18年、約40年ぶりに大きく改正され、手書きの「自筆証書遺言」の法務局保管制度が、’20年7月から始まった。さらに’21年度以降には、法務局に保管された自筆証書遺言の遺言者が亡くなったときに、生前指定した人に連絡する制度が本格的に始まる予定だ。
このように遺言書に関する制度が整備され、そのハードルは下がっているが、それでも、まだ多くの人たちにとって遺言は「うちには関係ない」存在だろう。
だが、弁護士の竹内亮さんはこう指摘する。
「遺言書がないと、遺族が集まり、財産分けについて話し合わねばなりません。その話し合いこそが、大変なのです」
遺言書があれば話し合う必要もなく、遺言書どおりに相続すればよい。残された家族がもめる機会も、大幅に減るという。
「特にお金持ちでもない、普通の家庭に、複雑な遺言書は必要ありません。A4用紙1枚に手書きでつくる『シンプル遺言』で十分です」(竹内さん・以下同)
残された家族がもめないための遺言書づくりを、教えてもらおう。
【ケース】自分の死後に残されたペットの面倒をみてほしい
光文和子(58歳)は、夫に先立たれてからペットを飼い始めた。1人暮らしのさみしさを癒してくれる犬のマロンと猫のみいが、今では家族同然の存在だ。
ペットの寿命を考えると、和子の年なら最期まで問題なく世話ができると思って飼い始めたが、夫の急逝がトラウマになり、もしものとき、ペットが路頭に迷うことだけは避けたいと思うようになった。
幸い長女のL美が動物好きなので、L美にペットの行く末を頼みたい。その分、多めに財産を譲るので、ペットの世話を約束させることはできないものか。
ペットは法定相続人ではないので、財産を相続させることはできない。民法でも、人以外の生き物に遺贈を認めていない。となると、和子のように、だれか世話してくれる人を探して、お願いするしかない。
「こうしたケースでは、『負担つき相続をさせる遺言』が活用できます。遺言でお金を残す代わりに、何かをしてもらうことを条件とする制度です」
和子には2人の子どもがいるが、ペットの世話を頼む長女には、長男より多めの財産を残し、「ペットの面倒を一生みること」という但し書きをつけるのだ。ペットを託すのがたとえば友人なら、遺言書に「負担つき遺贈」を記すこともできる。
【遺言書の例(自分で書く)】主な財産データ:自宅(土地・建物)1,500万円、預金2,000万円
遺言書
1 預金の全部を長女L美に相続させる。ただし、私の飼っている犬のマロンと猫のみいを最期まで大切に飼うこと。
2 東京都○○区××7-8-9の自宅の土地建物を長男のM一郎に相続させる。
3 以上に書いたもの以外のすべての財産を長女L美に相続させる。
2020年10月13日
東京都○○区××7-8-9
光文和子(印)
それぞれの項目を書き終えたら、書いた日付、書いた人の住所、氏名、そして押印を忘れずに。
「とはいえ、これで安心というわけではありません」
たとえば和子さんの死後、数年たって、ペットの面倒を頼んだL美がペットを捨ててしまっても、ペットには「負担つき相続」の履行を訴えられないからだ。
「遺言だけでは、残念ながら万全とは言えません。大切なのは、きちんと面倒をみてくれる信頼できる人を見つけることです」
後に残る家族への贈り物として、シンプル遺言を書いてみよう。
「女性自身」2020年10月27日号 掲載