「定年=老後」と考える時代はもう終わり。現代の60歳はまだ若く、少しだけ働きながら、好きなことに時間を費やせる最高の時期です。老後は80歳からでいい。月15万円で豊かに暮らす、60代夫婦のカタチを紹介ーー。
■「“週末のみの田舎暮らし”から始め、今は畑仕事をメインに生活。いずれは完全移住を予定しています」遠藤節夫さん(73)、みどりさん(69)
「老後を漫然と暮らすのはイヤでしたし、いつかは農的な暮らしをしたい、というのが新婚当時からの夫婦共通の夢でした」
そう話すのは、遠藤節夫さん。忙しい仕事の合間を縫って50代から土地探しをスタートし、“週末田舎暮らし”を始めたのが60代目前。10年前に自営業をたたんだのを機に、田舎での畑仕事がメインの暮らしにシフトした。
「どんなに疲れていても土をいじるだけでリフレッシュできていましたから、今の暮らしが楽しみで仕方ありませんでした。とはいえ畑仕事は初めてで、最初はへっぴり腰を笑われましたが、失敗しては本や先達から学び、なんとか納得のいく作物ができるようになってきました。土も手をかければかけるほどよくなる。畑仕事の合間に果樹を育てたり、薪小屋をつくったり、とにかく毎日が発見です」
畑を担当しているのが、節夫さん。その作物をどうおいしく調理し、ときに加工し、保存するかを考えるのが、妻のみどりさん。
「育てた作物から、かんぴょうやこんにゃくづくりにも挑戦していますが、手前みそながら、これが本当においしくて。その手間をかけられるのも、この年代だからこそですよね。畑でとれる野菜も、土がよくなるにつれてどんどんおいしくなり、それをいただく私たちも元気になっていく。食の大切さを、今さらながら感じています。2人とも食いしん坊で、現役時代はストレスもあったのでしょう。節夫さんは体重が100キロもあったんです。病気にならないかとハラハラしていましたが、この暮らしを始めてから、ダイエットもしていないのに30キロ減って。これもいいごほうびですね」
現在、生活費のメインは年金で、2人で15万円ほど。
「畑からの収穫があるので、食費は最低限です。水は井戸水、暖房は太陽光を利用した床暖房と薪ストーブ。薪は近くの方からいただいた木材を利用しているので、光熱費もそれほどかかりません。限りある資源をどう有効活用するかを考えるのも楽しみのひとつですし、本当に必要なものしか買わなくなりました。」と、みどりさん。
作物は少量多品目、コンポストで安全な肥料をつくり、果樹を植え、住まいは平屋の1LDK。
「これが、必要十分。『ときを貯める』という言葉が好きで、土もそうですが、お金ではなく時間をかけることで豊かになることを実感しています」と、節夫さんは言う。
朝の散歩と食事は夫婦一緒に、あとはお互いの自由時間。それぞれのときを、存分に楽しんでいる。
「女性自身」2020年11月10日号 掲載