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新型コロナウイルスへの感染対策として、加湿器が売れている。日本電機工業会によると、’20年4月から11月までに家電量販店などに卸された加湿器の出荷台数は74万9,000台。前年同時期に比べ、その数は約2倍に増加した(民生用電気機器自主統計調査による)。

 

多いときで100種類ほどの加湿器を販売する生活雑貨専門店「ロフト」の広報担当は、その売れ行きを次のように語る。

 

「昨年10月のロフト全店における加湿器の売り上げは、前年の同月に比べ4割増となりました。なかでも特に売れたのが、卓上用の小型タイプや、持ち歩きに便利な充電式の“超音波式”加湿器です」

 

加湿器は加湿方法の違いで、超音波式、加熱式、気化式の3つに大別される。

 

近年売り上げを伸ばす超音波式は、インテリアになじむ丸みのある形や、LEDランプを搭載したものなど、豊富なデザインが魅力。また、小型のものが多く販売されていることや、数千円で購入できる価格の安さも人気のポイントだ。ネット販売の売れ筋ランキングでも、おしゃれな超音波式が上位を占める。

 

しかし、この“超音波式加湿器”は使い方を誤ると、とんでもない呼吸器系トラブルを引き起こすことがあるという。

 

「加湿器のタンク内の水を何日も交換せずに使用すると、水の中で細菌が増殖。その菌が空気中にまき散らされることで『加湿器肺炎』を引き起こす可能性があるんです」

 

こう話すのは、浜松医療センター院長補佐・感染症内科部長で感染症に詳しい矢野邦夫先生だ。加湿器の売り上げが増えている今冬は、加湿器が原因の肺炎が増加する可能性があると懸念する。

 

「加湿器肺炎は、加湿器の中で増殖したカビや細菌を吸い込むことで起こる肺炎。免疫力が落ちている人がかかる細菌性の肺炎と、健康な人でもかかるアレルギー性の肺炎の2種類があります。細菌性の肺炎は、放置された水の中で増えたレジオネラ菌などを、高齢者など免疫力が低下している人が吸い込むことで発症。重症化しやすいのが特徴です」

 

’18年には大分県の高齢者施設で、加湿器のタンク内で増殖したレジオネラ菌に80〜90代の男性3人が感染。そのうち1人が死亡した。

 

「健康な人もかかるアレルギー性肺炎は『過敏性肺炎』と呼ばれています。加湿器の中で増殖したカビなどを繰り返し吸い込むことで、肺が過敏に反応し、アレルギーを起こしてしまうのです。加湿器をつけるたびに、咳や発熱、悪寒、息切れなどの症状が出ます」(矢野先生・以下同)

 

自分が使っている加湿器はどのタイプなのだろうか? ロフトの広報担当は加湿器の見分け方について、次のようにアドバイスする。

 

「噴出される蒸気が目に見えやすいのが、超音波式と加熱式です。しかし、加熱式は出てくる蒸気が熱を伴います。目に見える熱くない蒸気が出ていれば、超音波式の可能性が高いでしょう。ただし、最近は超音波式と加熱式を掛け合わせた“ハイブリッド式”の商品も増えているので、パッケージを確認したり、メーカーの公式サイトで本体に記載の品番を検索して調べるのが確実です」

 

では、超音波式を使っている家庭は、加湿器肺炎にならないためにどうすればよいのだろうか。矢野先生が正しい加湿器の使い方を教えてくれた。

 

「最も重要なのは、タンクの水を毎日交換することです。1日1回水を替えれば、カビやレジオネラ菌などの繁殖はほぼ防げるでしょう。その際、タンクの内側を水でふり洗いして、古い水が残らないようにしてください」

 

消耗品のカートリッジや給水スティックは定期的に交換が必要だ。また、加湿器を使わないときは、タンクの水を抜いて洗浄し、よく乾燥させてから保管するのも重要だという。機種によってお手入れの方法は異なるため、詳しくは取扱説明書を確認するか、購入したメーカーに問い合わせよう。

 

加湿器用の抗菌グッズや、タンクが抗菌加工された加湿器を使うのも手だ。ただし、過信は禁物と矢野先生。

 

「感染症医学の世界では、抗菌グッズを全く信用していません。菌が全滅するほどの消毒薬を入れた水を空気中に散布して吸い込むほうが問題がありますし、吸い込んで問題がない濃度であれば、滅菌させる効果は見込めないでしょう。また、水道水には塩素が入っているから安心とは思わないこと。塩素は2日後には蒸発してほとんど残りません」

 

万が一、加湿器肺炎になった場合はどうすればよいのだろうか。

 

「治療法はありますが、過敏性肺炎の場合、診察を受けても加湿器が原因とわからず“治りにくい風邪”と診断されてしまう可能性があります。超音波式の加湿器の水を交換せずに使っている場合、診察時に加湿器を使っていることを伝えたほうがよいでしょう」

 

空気が乾燥するこの時季、風邪やコロナ対策にも加湿はとても重要だと矢野先生。

 

「加湿をして粘膜の潤いを保つことは、感染症予防に効果があるので、加湿器を使うのは大賛成です。ただ、日々のお手入れはしっかりと行ってください」

 

加湿器を正しく使って、コロナも加湿器肺炎も防ごう。

 

「女性自身」2021年2月16日号 掲載

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